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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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映画「人生はシネマティック!」

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 やはりイギリス映画はいい。1940年、ドイツ空軍の激しい爆撃にさらされるロンドンが舞台。日常が死と隣り合わせの戦時下でも、人々はわずかな休息と娯楽を求めて映画館に通う。政府はそんな国民を鼓舞するため、情報省映画局を中心に戦意高揚映画(プロパガンダ映画)の製作を続けている。この映画は当時の映画製作現場を取り上げながら、困難の中で映画製作に奮闘する人々の姿と、その中で次第に女性として自立していくヒロインの姿を描いている。
 わたしには何より、映画に関するバックステージものというところが良かった。ヒロインが秘書をしていたコピーライターが徴兵されてしまい、代わりに書いた広告コピーが映画局の目に止まり、彼女は何の実績もないまま新作映画の脚本家(補助員といった位置づけ)としてスカウトされる。働き盛りの男たちはみんな戦場に駆り出されてしまい、製作現場は慢性的な人手不足に見舞われていたのである。
 このヒロインのカトリンを演じたジェマ・アータートンがすごくいい。一見したところは地味で控え目な印象なのだが、要所で筋の通った芯の強さを見せてくれる。好演である。地に足のついた感じというか、いかにもイギリス映画らしい人物造形が好感が持てた。

 彼らが取り組むのは、いわゆるダンケルクの戦い(ドイツ軍に包囲されたイギリス兵40万人の撤退救出作戦)で、双子の姉妹が父親の漁船で海に出てこの作戦に貢献したという「実話」の映画化である。脚本チームは彼女を入れて3人、中心となるトム・バックリー(サム・クラフリン)は優秀だが付き合うには難しい男のようだ。最初カトリンは戸惑いを隠せないが、彼女の見せる的確な反応や判断を通して、次第にその才能は周囲に認められるようになっていく。
 こうしてあらすじを書き連ねても仕方がないのだが、映画としての語り口が非常に巧みなこともあって、次々に彼女や製作現場に降りかかる困難を乗り越えていく姿が、実に面白く生き生きと描き出されていくのである。かなりめげそうになる事態でも、彼らは決して深刻になることなく対処していく。監督はロネ・シェルフィグというベテラン女性監督だったようだが、大仰にならなずあくまで自然に淡々と進めて行く演出は素晴らしいと思った。
 カトリンには実質的に結婚している夫がいたのだが、彼女が脚本の仕事に忙殺され、撮影開始とともにロケ地に長いこと同道してしまったことから、2人の仲は破局を迎えることになってしまう。失意の彼女は、いつしか映画製作の現場にすっかり入り込んでしまった自分に納得するしかない。映画としてのストーリーは、このあと彼女と脚本家トム・バックリーとの関係に自然に移っていくことになる。2人の間に恋が芽生える、この展開は予想通りといえば予想通りなのだが、それが何の違和感もなく感じられたのはロネ・シェルフィグ監督の力だったと思う。2人がぎこちなく接近していくところを、この監督は実に暖かく丁寧に描き出して見せる。

 だが、これでハッピーエンドになるのだなと思わせておいて、次のシーンでいきなりトムを事故死させてしまったのには驚いた。「人生」はそんなに簡単にラブストーリーを成就させてはくれないのだ。今度こそショックで立ち直れなくなってしまったヒロインを訪ね、彼女を絶望の淵から救い出すのは、映画の現場ではさんざん彼女を困らせていたプライド高き落ち目のベテラン俳優アンプローズ・ヒリアード(ビル・ナイ)なのである。このシーンが実にいい。彼を始め、この映画は脇役がみんな実にいい味を出していて、特にこのビル・ナイという老役者は見事だったと思う。演じ過ぎないし、監督も過剰な演出はしていないところが何とも言えない。
 結局この映画は、最初からラブストーリーだけで終わらせるつもりはなかったのだ。この映画は最初から、カトリンやトム、アンプローズを始めとした多くの登場人物をみんな鮮やかに描き分けて、それらの人々が戦時下の困難の中で一つのチームとなって、それぞれの持ち場持ち場で映画への思いを貫いてみせる映画だったのである。

 脇役が実に良かった。最初はどうということもなく出てくるのだが、出番が重なるにつれて(出番はそんなにあるわけではない。あくまでも脇役なのである)存在感を増して行く感じがあった。上手いだろうと主張してしまう脇役なら注目はしないのだが、あくまで控え目にそこにいるだけ。それが次第に光ってくる、その積み重ねがこの映画の奥行きになっていたと思う。イギリスではそれなりに名のある役者たちらしいが、わたしはまったく知らない人たちだった。
 情報省映画局から政府の意向を受け、脚本チームの監視役として折に触れて顔を出す女性局員、レイチェル・スターリング。老俳優アンプローズ・ヒリアードのエージェント、エディ・マーサン。彼の死後、エージェントの仕事を引き継いだ姉のヘレン・マックロリー。彼らがよく通ったビストロのウエイター、と書いたところでプログラムなどを調べたが、どこにも名前が載っていなかった。こんな小さな脇役が印象に残るというのは、映画であれ芝居であれ絶対に佳作に違いない。この映画は、そうした脇を固める役者たちがんどん鮮明になっていく映画だった。
 撮影開始時点では問題だらけだった映画製作の面々が次第に一致団結していき、ある晩、借り切ったバーのようなところで息抜きの飲み会を持つところが印象に残る。双子を演じた主役女優や、例の老アンプローズ・ヒリアードが歌を披露するシーンがすごく良かった。そういう脇役たちが作る親密な雰囲気の中で、ヒロインの思い通りにならない運命が点描されるところなど、上手い映画だなあと思わないではいられなかった。

 トムの死やカトリンの離脱、様々な曲折で一時は暗礁に乗り上げながら何とか完成された映画と、最後に満員の映画館でカトリンが対面するシーンは感動的だった。映画の登場人物たちとともに、この映画の監督であるロネ・シェルフィグの映画への「愛」が溢れていると思った。
 ロケ現場でのテストフィルムに偶然収められていたカトリンと生前のトムの他愛のない喧嘩のシーンが、完成された映画の中にさりげなくワンカットだけ紛れ込んでいるなどというのは、まったく憎い演出と言うしかないではないか。「人生」は思い通りにいかないことだらけだが、それほど捨てたものでもないのではないか。こんなに温かい気分にさせてくれる、後味のいい映画はそんなにあるものではない。記憶に残る傑作だったと思う。
(新宿・武蔵野館、11月21日)
by krmtdir90 | 2017-11-22 21:02 | 本と映画 | Comments(0)
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