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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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「昭和の犬」(姫野カオルコ)

 今期の芥川賞・直木賞が発表されて数日後、近所の本屋に行くと受賞した3冊の単行本が仲良く棚に並んでいた。どれにしますか?と聞かれているようで、ちょっと考えたが、何となく面白そうな匂いがしたこの本を購入して来た。

 一気には読まなかった。だからといって面白くなかった訳ではない。この本は、どんどん引き込まれて一気に読み終わるような本ではないような気がしたのである。面白い本だなあとは思いながら、しかし割とだらだらと(のんびりと)読んだ。
 この「面白い」は、「不思議な」とか「奇妙な」に近い。それは、この物語の表現の仕方(文体)や、テンポといったものが作り出したものだと思う。非常に特徴のある文章を書く人で、表現の思いがけない飛躍が随所に出てくる。
 文章が個性的で飛躍が多かったりすると、読者としては付いていくのが辛かったりすることもあるものだが、この作品にはそういうことは全くなかった。物語がこの書き方を望んでいると言うか、この書き方がこの物語を、ちょうどいいリアリティで読者のところに運んでくる感じがした。

 大きく括れば「女の一生もの」(半生ものか)と言っていいように思うが、掬い上げられているエピソードやその細部の拘りが、通俗的なそれとは明らかに違っているのである。普通なら詳しく描かれるようなことが描かれなかったり、一見どうでもいいように思えることが詳しく触れられたりする。バランスを欠いたように見える話の展開とか、その奇妙な感性といったものが、この物語の不思議な手触りを形成していると思った。
 物語られる事柄と物語る作者との距離感といったもの、それが結構遠くに設定されているので、読者には熱や激しさというようなものは全く伝わってこない。しかし、淡々としてはいるが決して乾いてはいないのである。こういう書き方をして成功する例というのは、普通はなかなか考えられないような気がする。

 最後がみずからの人生への肯定と周囲への感謝で終わるというのは、それを書いてみせるのは、ちょっと考えられないくらい難しいことだったのではないだろうか。この本はそれに成功した希有な例なのではないかと思った。わたしのようなへそ曲がりが素直に共感したのだから本物である。
 ページの下段に時々、小さな活字で「注」のようなものが付けられているが、最初の「注」が「パースペクティヴ 遠近法、遠近画、遠景」で、文中にこの物語を書くにあたっての作者の姿勢が率直に語られている。ちょっと抜粋しておく。

 そのころは今から見ると遠くにあり、小さい。だが、そのころまで近づくと大きい。大きくてすべてを掴めない。とくに幼稚園児や小学生にはとても。だが、今いるところまで瞬時に視点を引けば瞬時に小さくなり、掴める。ならばパースペクティヴに話そうと思う。犬、ときに猫のいる風景を。

 こんなふうに最初に宣言をして、その通りに書き切ってしまうというのはすごい才能と言うべきだろう。わたしはこの作品がこの作者の初読なので、すでにたくさん出ているらしいこの作者の他の作品がどうなっているか、ちょっと興味がある。
by krmtdir90 | 2014-01-28 16:05 | | Comments(0)
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