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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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「リニア新幹線・巨大プロジェクトの『真実』」(橋山禮治郎)

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 山形駅で時間を潰していた時に、駅ビルに入っていた本屋で購入した本である。
 奥付によれば第一刷発行は昨年の3月で、その時点で、このバカげたプロジェクトを何とか止めなければという筆者の思いが込もった出版だったと思われるが、その後一年あまりの間に、事態はさらに悪い方向に進んでしまっている。
 昨年10月17日、国土交通省(国土交通大臣は公明党の太田昭宏)がJR東海の工事実施計画を認可。同12月17日、品川・名古屋両駅で工事安全祈願式(起工式)を実施、準備工事着工。

 著者の橋山禮治郎という人について、申し訳ないがわたしは全く知らなかった。巻末の略歴を見ると、政策評価・公共計画・経済政策などが専門の大学教授で、1940年生まれとあるから、今年で75歳になる高齢の学者であるらしい。失礼な言い方になるが、リニア中央新幹線の開業時には存命かどうか定かではない方なのである。
 それでも、みずからが生涯を費やしてきた研究成果に照らして、おかしいものはおかしいと言っておかなければならないという、研究者の良心と切実さの詰まった書だと思った。橋山氏は「おわりに」の中で、この計画が「国家百年の愚策」と断じる一方で、次のようにも述べている。

 私ごときが慎重論、新幹線方式への計画変更等を提案したり、政府・国会での再検討を求めたところで、世の中が変わるはずはありません。しかし、成功する可能性が低いとわかっているプロジェクトならば、着工を急ぐことは計画事業者、国民、わが国にとって不幸なことですし、成功するために計画を変更できるならすべての関係者にとって喜ばしいことだとの思いから、一研究者としての率直な私見をまとめたものです。リニア計画について、ご理解を深めて下さる一助になれば幸いです。

 再び失礼ながら、非常に謙虚で、情理と条理を尽くした冷静な物言いだと思った。決して最初から反対ありきの、声高な書き方ではないのである。
 一方、そうは言いながら、この本を手に取ってもらわなければならない出版社側がつけたと思われる、表紙カバー裏の惹句にはこうある。

 最高時速500キロ超で、東京・大阪間を一時間で結ぶ“夢の超特急”リニア新幹線。しかし、その実像は、ほとんど知られていない。全区間の七割が地下走行で、車窓は真っ暗。遠隔操作で運転手不在。乗り換えは不便で、安全対策も環境対策も穴だらけ。中間駅建設は地元負担(*引用者注)。新幹線の3~5倍の電力を消費。そして、2045年(予定)の全線開通時には人口が24%減少するにもかかわらず「移動需要は今より15%増える」という不可解な試算……。
 本当にこんな巨大インフラは必要なのか、徹底的に検証する!
*引用者注 JR東海の方針転換により、現在は、駅本体の建設(最低限の施設のみ)はJR東海が行うが、付帯施設や駅周辺の整備等は用地取得などを含め一切地元負担となっている。

 本は売れなければ仕方がないから、惹句は少々強い口調になっているが、本書が行っている検証作業の中身はきわめて公平で、バランスの取れた実証的なものになっている。
 リニア中央新幹線の問題点については、わたしは以前に一度書いているし、本書で指摘されている内容をもう一度繰り返すことはしないが、ここにはこのプロジェクトがいかに杜撰な見通しの下で進められようとしているかが、筋道立てて余すところなく描き出されていると思った。計画の当事者であるJR東海を始めとして、国土交通省や政治・行政の無責任が鮮明にあぶり出されている。
 本書を読むことで新たに気付かされた幾つかの点についてだけ、以下に触れておきたいと思う。

 つい先日、青函トンネルを走行中の特急・スーパー白鳥が発煙事故を起こし、乗客がトンネル内から地上まで5時間の避難を余儀なくされるというニュースが報じられた。いかなる最新技術を持ってしても、絶対安全ということがありえないのは福島の事故からも明らかになったはずだが、トンネル内で事故が起こらないという保証などどこにもないのである。
 全区間の七割(東京・名古屋間では実に86%)が長大トンネル(しかも大深度)というリニアにおいて、事故時の対策が本当に取れるのか、大いに疑問と言うほかないような気がする。青函トンネルの事故でも、たまたま緊急停車の位置が(地上へのエレベーター施設などを備えた)旧竜飛海底駅から1.2キロ地点だったという、偶然の巡り合わせで何とか乗客救出がうまくいったということに過ぎないのではないか。海底駅がなかったら一体どうなっていたのか、考えるだけで恐ろしい気がするのである。

 しかも、リニアは集中制御による遠隔操作で運行されるため、そもそも最初から運転手は不在であり、数名の乗務員しか車内には存在しないのだという。そんな手薄な態勢で、事故に対応した安全確保や避難誘導が本当に出来るのか、はなはだ疑わしいと言わざるを得ないのではないか。
 あらゆる不測の事態を想定しておかなければ大変なことになるという教訓を、原発事故から学んだのではなかったのだろうか。車輌故障や火災だけではない。遠隔操作となるリニアでは、その通信システムの異常とか、制御側の問題によって車輌が停止したり制御不能になったりする可能性も考えられるのではないか。全体の86%をトンネルという密閉空間内で走らせるなどという計画は、絶対安全という神話の助けでも借りない限り成立しない、無謀で傲慢な計画ではないだろうか。

 このプロジェクトの採算見通しの(犯罪的な)甘さを指摘したところは、本書の中で最も説得力のある部分だと思った。そして、こんないい加減な計画でJR東海を突っ走らせた根幹のところに、分割民営化時の6分社化の矛盾も関係しているとの指摘は、深く首肯させられたところである。
 以前にわたしも指摘したことだが、JR東海がこんなビッグプロジェクトを自前で実現できるほど利益を計上できるのは(一方で北海道や四国のような、どうあがいても赤字から脱却できないJRが存在するのは)、分割のあり方がきわめて不公平なものだったことの証左なのである。
 JR東海は、膨大な利益をこんなバカげた夢物語に投資するのではなく、JR全体の鉄道ネットワーク維持のために使うべきなのである。本書でも述べられているが、今後JR各社の再編問題が避けられない認識があるのであれば、東海1社にこんな無駄遣いを許す前に、いますぐにでも再編を考えて矛盾を解消すべきではないのだろうか。

 リニアが、既存の新幹線網とは相互乗り入れも連結もできない、「第三の鉄道」「従来の鉄道とは全く異なる別の乗り物」なのだという指摘も重要だと思った。リニア中央新幹線計画の目的の一つに、東海大地震等の大規模災害時に迂回ルートを確保する必要があると謳われていることの欺瞞を指摘している点である。
 東日本大震災の時、高速道路や各地の道路網が軒並み寸断される中で、日本海側の路線を中心に被害を免れた鉄道が緊急物資輸送などで果たした役割は大きかった。だが、忘れてならないのは、大規模災害時にまず必要となる物資輸送などに活用できるのは、現時点でも新幹線ではなく、相互乗り入れ可能な軌間1067ミリの在来線のネットワークだということである。大地震の時、どう動くか判らない中央構造線を貫くという無謀を冒すリニアは、その問題以前に、在来線とも新幹線とも相互乗り入れ不可能な、貨物輸送には全く役に立たない孤立した乗り物なのである。

 きりがなくなってきたので、このくらいで止めておくことにするが、最後に、少し長くなるが、リニアと原発の類似性について指摘した印象的な部分を書き抜いておきたいと思う。

 今回の原発事故を招いた真の原因は、「核分裂反応理論」という科学的知識そのものにあるのではなく、その原理を応用して原子爆弾や原子炉を製造し、実際に稼働させることを決断した政策決定者の、人類に対する責任感と倫理観の在り方に内在していると言うべきではないだろうか。
 ひるがえって考えると、世界中でどこにもない超電導磁気浮上方式のリニア計画が、形骸化した審議会の答申を受けた国土交通大臣の一存でいとも簡単に承認され、殆どの国民が計画内容を知らされないままに進められてきたという閉鎖性に大きな問題があると憂慮せざるを得ない。政策決定に責任を負うべき政治家までもが、計画内容を殆ど知らないままに「速くていいじゃないの」「一回は乗ってみたい」「早くやってくれよ」「日米技術協力の象徴にしようではないか」と、まるで子供のようにはしゃいでいる。

by krmtdir90 | 2015-04-07 00:01 | 本と映画 | Comments(0)
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