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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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116校も落としてしまった・3(高校演劇2015⑮)

 地区審査をしながら、7年間で落とした116校の舞台を思い出しながら、それらの舞台がなぜ選ばれることがなかったのかということについて、わたしが考えたことを整理しています。できれば「1」から順番に読んでいただけると嬉しいのですが。

3,ダメな台本といい台本

 もうしばらく台本の話をしなければならない。どういう台本をやるのかというのは、とにかく舞台の出来を決定的に左右してしまうものだからである。

 前回、観ていて悲しくなるような舞台の多くが、生徒創作台本の舞台であると書いた。そして、残りの大半はたぶんインターネット台本だと言っていいだろうと思う。はりこのとらの穴に代表される台本検索サイトから引っ張ってきた台本である。
 確かに手軽に探すことができるから、ついつい頼ってしまいたくなる気持ちも判らないではない。実際、男女別の人数指定を行い、ラブストーリーとかお笑いとかジャンル指定を行ってやれば、たちどころに希望に叶った台本リストが表示されるようになっている。読む前にあらすじなども表示されるし、次に冒頭だけ読むページに行って、つまらなければ次に進めばいいのだから、手間は省けるし、それでいながら何となく探した気分になれるのかもしれない。

 だが、ここに所蔵されている台本の大半はダメな台本である。もちろん全部の台本をチェックしたわけではないが、これまでにここから持ってきた台本で素晴らしい舞台が作られたという話は一度も聞いたことがない。今回一緒に審査したN先生の台本も登録されているようだから、本気で探せばいい台本に巡り会うこともあるのかもしれないが、漫然と見ていてはまず99パーセント、ダメな台本にしか当たらないと考えた方がいい。
 批判する以上、わたしも以前、何度か検索してあれこれ読んでみたことがある。たまにそれなりの台本にぶつかることがないとは言わないが、いい台本にぶつかったことは一度もない(その時はN先生の台本は見つからなかった)。

 恐らく問題なのは、こうしたシステムの中で生徒が台本探しをすると、どうしても表面的な面白さなどに気を取られて、それがいい台本なのかダメな台本なのかという判断はそっちのけになり、簡単に共感できる方に流れていってしまうことなのではないだろうか。あらすじなどに書かれた作者のキャッチコピーに惑わされて、何となくよさそうとか、こういうはなし好きとか、マンガやアニメふうの筋立てなどに乗せられてしまいがちだと思うのである。
 結局、台本とはどういうものなのか、どうあるべきものなのかを考えたことがなければ、自分たちの日常生活で身近にある感性だけで選んでしまうのが当然だし、無理もないということになってしまうのではないか。しかし、それではダメなのである。
 率直に言ってしまえば、生徒というのは、これが台本なのだと薦められる台本の中から(そういう台本だけに限定した中から)選ぶのでなければ、どうしても安易な台本の方に流れてしまうことを止めることはできないと思っている。ダメな台本がほとんどを占めるサイトの中から、それなりにいい台本を探し出し、確実にそれを選び取る力というのは、残念ながら誰にでも備わっているわけではないと、わたしは考えている。

 インターネット台本の問題点を整理しようと思って少し書いてみたが、わたしが書きたいと思っていたことからは外れていくばかりで、少しも生産的な話になっていかないように思えたので、思い切って消してしまった。本当はきちんとさせた方がいいのかもしれないが、そういう作業は他の人に任せておくことにする。とにかくわたしは、悲しくなるような舞台の大きな原因が、生徒創作台本やインターネット台本を選んでしまったことにあるのだと断定して、先に進みたいと思う。
 断定した上で、ただ一点、これらの台本にはちゃんとしたセリフが書かれていないからだという点を問題にしたいと思う。ダメな台本といい台本の差というのは、結局この一点に集約されて出てくるものだと思うからである。
 いい台本のセリフというのは、練習して行くにつれて、自然にお互いのやり取りや動きの呼吸が形成されてきて、どこにも説明されているわけではないのに、自然にいろいろなこと(関係性や状況など)が浮かび上がり、練習すればするほど、役の気持ちが自然に流れ出してワクワクさせられるものなのである。
 ダメな台本のセリフではそうはならない、と書こうとして、そっちはとりあえずどうでもいいと考えることにした。いいものが理解できれば、ダメなものがどうしてダメなのかは自ずと判ってくるものだろうと思う。

 いい台本とはどういうものなのか。生徒が台本選びをする時、問題なのは恐らく、彼らの中にいい台本のイメージがしっかり形作られていないことなのではないかと思い至った。こういう台本を選べば、最悪でも悲しくなるような舞台にはならないはずだという、具体的なイメージ作りの働きかけが決定的に不足しているのではないかと思った。
 インターネット台本はやめた方がいいという話は聞いたことがあっても、それではどういう台本選びをしたらいいのかという道筋は、これまでほとんど示されてこなかったのではないだろうか。それでは生徒たちは道に迷ってしまうばかりである。
 自分たちの部活の台所事情(部員数や男女比など)は別にして、つまり自分たちが上演できるかどうかは考えないで、とにかくいい台本だけを読み合ってみる時間が必要なのではないかと思った。一部をお互いに読み合わせしたりして、いい台本のセリフというのがどんなにワクワクするものなのかを実感することが、(遠回りのように見えても実は)早道になるような気がした。

 そういう取り組みを、早急にどこかがするべきだと思う。これが「いい台本」というものなのだと、これが「ちゃんとしたセリフ」というものなのだと、そういうスタンダードをきちんと提示してやることが、いま必要になっているのだと思う。
 もちろん演劇というのは、一方で常に新しいものを求めている表現形態なのも判っているつもりである。単一の価値観で割り切ることができないことも承知しているつもりである。だが、コンクールで落とされてしまう(わたしが落としてしまった)116校という高校演劇の裾野のことを考えるのであれば、まず何よりも何がいいものなのかを判りやすく示してやることが必要な気がするのである。
 県大会や上の大会の舞台を見て考えればいいなどというのは、悲しくなるような舞台しか作れなかった生徒たちのことを考えていないたわごとだと思う。彼らがなぜダメな台本しか選べないのかを、もっと正面から考えてみなければいけないと思うのである。

 ここに、わたしが考える「いい台本」の例を20本ぐらい挙げることはできる。だが、わたしはもう引退した人間である。わたしの書架には古い台本しかないし、最近の高校生向けのいい台本はほとんど手許にはないのである。そういうことは現役の、いま生徒たちと関わっている先生方に任せておくべきだろうと思う。ただ、こういう展開にしてしまった以上、わたしもほんのちょっとだけ具体的な例を話しておきたいと思う。

 わたしが西部A地区のN高校に移ってから、たびたび愛用?した台本がある。最近、上演許可が下りなくなってしまったという噂を聞いたような気がするが、どうなっているのだろう。
 高泉敦子・伊沢磨紀作「モンタージュ」という台本である。2人芝居だから、部員が数人に減ってしまうと(部員はたいてい少なかった)いつもこの本に帰ってきた。2人芝居だが、その中身は「老女1・2」「少女1・2」「母親と娘」「少年と少女」の4パターンが用意?されていて、特に「少女1・2」と「少年と少女」の部分をよく利用させてもらった。
 最初にやったのは転勤して最初の年、1年生の女子2人と裏方ならという上級生の男子しかいなかったと思う。実はわたしは、この学校で柔軟や発声練習などをやらせたことは一度もない。たった2人になってしまっても、演劇は面白そうだ、演劇がやってみたいとやってきた生徒なのである。余計なこと?は抜きにして、いきなりこれやってみようということにした。余計なことは考えないで、普通に喋っているようにやればいいんだよと、言ったかどうかはもう覚えていない。
 だが、1年生だった彼女たちはすぐに熱中した。小学生の他愛もないやり取りだから、難しいところは一つもない。難しく考える必要は全くないし、難しく考えてしまったらダメになってしまう本である。声の調子や強弱、間合いや動き、距離感といったもの、何も言わなくても彼女たちは自然に自分の感覚で獲得していった。ワクワクしながらやっていることがはっきり伝わってきた。いい台本のセリフというのは、そういう力を持っているのだということを初めて知った気がした。

 部員(キャストをやりたいという生徒)が5人ぐらいになると、前川麻子作「センチメンタル・アマレット・ポジティブ」を使った。10人ぐらい集まると、如月小春作「DOLL」をやった。どれもプロが書いてプロの舞台になった台本で、もうずいぶん古くなってしまった本だが、そこに書かれたセリフの力は古びることはないだろうと思っている。
 しかし、いまの生徒の皆さんはこんな古い台本に戻らなくてもいいと思う。高校生のために書かれた台本の中にいい台本はいっぱいあると思う。そういうものをたくさん読んで、ちゃんとしたセリフというのがどんなに面白いものなのかをしっかり掴んでから、台本選びをやってほしいと思う。もしかすると生徒創作に取り組むのも、こういうことがしっかり飲み込めているのであれば、あながちやめた方がいいとばかりは言えないかもしれない。と書いてしまってから、ここはやはり違うと思った。ここはやはり、安直な言い方は避けなければいけない。
 いい台本を探すのといい台本を書くのとでは、難しさが全然違うということである。書くことの方が100倍ぐらいは難しいと思う。大人だって、才能がないなら書いてはいけないのである。才能については未知数だけれど、誰にも負けない努力と勉強が(そして皆さんが考える執筆時間の少なくとも10倍ぐらいの時間は)必要だということは言っておきたい。いい台本を探すことに全力を挙げる方が、ずっと成算があるし現実的なことだと思う。

 台本選びはホントに難しい。ホントに面倒くさくて大変で、いい加減なところで手を打ってしまいたくなる気持ちは判る気がする。でも、一度選んでスタートしてしまったらもう後戻りはできないし、簡単に差し替えることはできなくなってしまうのである。審査員の立場で正直に言わせてもらうなら、ダメな台本を選んでしまったら、後でどんなに頑張ってみたところで、いい舞台になる可能性は限りなくゼロに近いということである。
 講評の時にそんな言い方はできないから、ある程度オブラートに包んで言うしかないのだが、ここは講評ではないのだから率直に言っておきたいと思う。おかしなところなどはどんどん書き直してしまいましょうなどと、これもまた審査員が言ったりすることがあるのだが、それはオブラートなのだということを判ってほしいと思う。ちょっとぐらい書き直したって、ダメなものはダメなのである。
 とにかく、生徒創作とインターネット台本を試しに禁止してみればいいと思う。観ていて悲しくなるような舞台は確実に半減するだろうと思う。3分の1、4分の1になるだろうと思う。乱暴な言い方に聞こえるかもしれないが、悲しくなるような舞台を見続けてきた一審査員としての、心からの感想として受け取ってほしいと思っている。
by krmtdir90 | 2015-10-09 00:01 | 高校演劇、その他の演劇 | Comments(0)
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