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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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「タモリと戦後ニッポン」(近藤正高)

「タモリと戦後ニッポン」(近藤正高)_e0320083_16165943.jpg
 改めて感想文を書くほどの本ではないかとも思ったが、けっこう面白く読んだのだから、記録という意味で一応書いておくことにする。
 著者の近藤正高という人は、1976年生まれのフリーライターで、主にサブカルチャーなどの方面を得意分野としているようだ。まえがきには「本書はタモリの足跡を通して戦後ニッポンの歩みを振り返るというものである。なぜ、タモリを軸としたのか。それはまず何より、彼が1945年8月22日と終戦のちょうど一週間後に生まれ、その半生は戦後史と軌を一にしているからである」と書いてあった。まあ、軽く読める本だろうなと思って購入してきたのである。

 タモリについては最近、NHKの「ブラタモリ」という番組を(時々)見るともなしに見てしまうのだが、町並みを歩きながらなかなか鋭い見方を披露するので、やはりこういうマニアックな部分があったのだなと、何となく納得するような気分になっていたのである。
 彼の生年月日は知らなかったが、いま70歳になっているとすれば、あの津野海太郎言うところの「老年」に、いままさに足を踏み入れたところということになる。

 本書が面白かったのは、そのタモリ一人の足跡に伴走し続けるのではなく、その周辺にあった様々な戦後のカルチャー、サブカルチャー全般を視野に入れて、その全体を描き出そうとしているところだと思った。それはタモリの足跡からすれば脱線であり寄り道なのだが、そういうところが読者の幅広い興味に応えていると思った。
 わたしはタモリより2歳年下の1947年生まれだから、ここに書かれている「時代の風景」といったものは、そのほとんどが「同時代」の出来事として、わりとリアリティを持って甦らせることができるのであるが、そういう懐かしさというのは、「老年」に近付きつつある者にとっては、想像以上に大切なものなのだと思う。だから、タモリがあのサングラス姿で徐々にテレビに登場し始めた頃の、他の誰にも似ていない喋りや芸の、何とも言えない胡散臭さとかいかがわしさといった感じも、かなり記憶の中に残っていたと思う。

 タモリに関して言えば、彼の生い立ちからテレビに出始めるあたりまでの前半部分がとりわけ面白かった。タモリと「同時代」ということで、同じ1945年生まれの吉永小百合や藤純子などの名前も出てくるが、みんな70歳になったのかと感慨深いものがあった。彼は吉永小百合とは早稲田大学ですれ違っているようだが、その早稲田でタモリは「ダンモ研(モダンジャズ研究会)」に入ってトランペットを吹いていた(一年くらいでやめてしまったらしいが)。
 2歳遅れで大学に入ったわたしの頃も、モダンジャズは(ある部分の)大学生にとって基本的なカルチャーだった感じがあり、本書で語られるジャズ喫茶のあれこれなどは非常に楽しかった。「ビッチェズ・ブリュー」におけるマイルス・デイビスの「変貌」の衝撃などというのも、ああ確かにそうだったなと懐かしく思い出した。

 タモリが早稲田を中退して郷里・福岡に帰り、本書で「空白の七年間」と描かれているあたりも面白かった。保険の営業、ボーリング場の支配人、フルーツパーラーのバーテンダーなど、様々な職業を経験する(仕事に対しては非常に熱意を持って取り組んだらしい)中で、1972年、演奏旅行で福岡を訪れていたジャズの山下洋輔トリオと出会うところなど、のちの型破りなタモリが彷彿とするような、なかなか興味深い様子が描き出されている。
 1975年、その山下洋輔に呼ばれて再びタモリが上京するあたり、初期のタモリの芸に惚れ込んで、何とか彼をデビューさせようと応援するグループが存在したことも面白い。その中の一人、先般(2008年)亡くなった赤塚不二夫が、自宅マンションに一年近くタモリを居候させていたこと、その赤塚のテレビ番組がタモリのテレビ初出演になったことなど、面白いエピソードが次々に出てくる。あの筒井康隆もタモリ応援団の一人だったとか、タモリに自分の物まねをされた寺山修司が、タモリに会いたがっていたが果たせないまま早世してしまった(1983年)ことなど、挙げていけばきりがなくなる。

 わたしはテレビとあまり熱心につきあってきたわけではないから、テレビに出るようになったタモリの番組を律儀に追いかけたりというようなことは全くしていない。他と比べて興味あるタレントだとは思っていたが、その時々の印象の多くは、本書を読んで思い出したり確認したりしたのである。
 「今夜は最高!」(日本テレビ・1981~1989年)、「笑っていいとも!」(フジテレビ・1982~2014年)、「タモリ倶楽部」(テレビ朝日・1982年~)、その他様々な番組で活躍するようになったタモリについて、わたしはそれほどの印象を持っていたわけではない。「ボキャブラ天国」とか「空耳アワー」とか、印象はきわめて断片的なものでしかない。最近では、フジテレビで一年間だけ(2014~15年)放送された「ヨルタモリ」を時々覗いていたが、バーのママに扮した宮沢りえの自然体とマッチして、タモリらしさが自然に出たいい番組だったという記憶がある。

 最後の章で、タモリが60歳を過ぎてから(2008年から)出るようになったNHKの「ブラタモリ」にからめて、タモリの「散歩」に対する姿勢のようなものを、植草甚一や永井荷風のそれと比較したあたりも面白かった。
 著者はまず「植草の著書のタイトル『ぼくは散歩と雑学がすき』になぞらえれば、まさに『タモリも散歩と雑学がすき』なのだ」と述べたあと、川本三郎の「(植草は散歩そのものが好きだったわけではなく)あくまでも買い物が好きだったのであり、その結果として散歩があっただけである」という言葉を紹介している。川本三郎はさらに、「永井荷風の場合は、その作品が東京論を書くときに絶好なテキストになるのに、植草甚一の場合は、まったく資料的価値がない」と断じているらしい。植草甚一はわたしが学生だったころ読んだ記憶があるが、ここに言われていることは、なるほどと納得できる気がした。

 タモリの散歩の特徴について、著者は「街を歩くにも(植草と違って)買い物をすることはあまりなく、その好奇心がもっぱら地誌的な事柄に向けられていることだ。その点では、植草より前の世代の永井荷風などと志向的に通じるところが多い」と述べ、「いまの街を散歩しても、買い物するわけでも思い出に浸るわけでもなく、地図あるいは地形や史跡などを手がかりにただひたすらに想像をふくらませるタモリの散歩は、究極のイメージの散歩といえる。そこではタモリはあくまで観察者の立場に徹している」と書いている。
 初期の芸風から一貫して、タモリという存在の中にあった「観察者の立場」を考えると、最近のタモリは「ブラタモリ」という番組によって、若かりし頃からの原点にもう一度回帰しているのかもしれないと思った。
by krmtdir90 | 2016-02-04 16:17 | | Comments(0)
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