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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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「銃」「土の中の子供」(中村文則)

「銃」「土の中の子供」(中村文則)_e0320083_21134730.jpg
 調べてみると、「土の中の子供」が芥川賞を受賞したのは2005年の上半期だったようだ。2005年といえば、わたしはまだ働いていて、あまり本などを読む余裕もなく、芥川賞や直木賞に興味がなかったわけではないが、そういう受賞作を追いかけるようなことは全くしていなかった。
 「銃」の方は、2002年に新潮新人賞を受賞したデビュー作らしいが(芥川賞候補にもなっている)、その時もわたしには全く印象にはなかった。1977年生まれの中村文則氏はこの時25歳だったようだ。

 今回わたしが興味を持ったのは、例の又吉直樹氏の「第2図書係補佐」を読んだ時、その巻末にこの両名の対談が載っていたのが印象に残っていたのである。又吉は1980年生まれだが、その彼がファンであると公言する作家がどんなものを書いているのか、ちょっと読んでみようという気になったのである。
 又吉直樹氏についてそんなに知っているわけではないのだが、読んでみて、彼がこういうのが好きなのは何となく判るような気がした。

 順序としては「銃」を先に読んだのだが、こういう出口の見えない暗い情熱というようなものに、若い時だと心をぐいと掴まれてしまうことがあるかもしれないと思った。わたしはたぶんそうはならないだろうが、又吉がそうなってしまったというのはあり得ることのように思えたのである。
 「第2図書係補佐」で紹介している47冊の本の中にも「銃」が入っていて、又吉は「平凡な大学生として日常を過ごしていた男が『銃』を拾い、それによって精神に変化をきたし日常から逸れて行くという物語である。『銃』を手にした男はどうなってしまうのか。この小説を僕は他人事ではないような気持ちで読んだ。真ん中から心をえぐられた。僕にとって特別な一冊だ」と書いている。若い人間のこういう反応はよく判る気がした。

 この小説は「私」という一人称で語られ、「昨日、私は拳銃を拾った」という何とも魅惑的な一文でスタートする。それはあくまで具体物としての拳銃であり、青年はそれに魅せられ、その意識と行動の全てをそれに絡め取られていく。一人称は、その息詰まるような緊張と孤独を、内に閉じた思考の流れとして克明に跡付けていくのである。
 改行や会話による余白が極端に少ない、ページが文字でべったり埋まってしまうような書き方をしていて、そこに青年の意識がびっしりと埋め込まれている気がした。これは又吉でなくても、夢中になる若い人間はいるだろうなと思った。わたしはもう若くはないから、非常に面白かったがきわめて冷静に読むことになった。

 ストーリーの展開として、後半は出来としてはどうなのだろうと思ってしまった。刑事が登場するあたりから最後の主人公の「暴発」に至るまで、それまでは異様なワクワク感といったものが張り詰めていたものが、スーッとありふれた雰囲気に流れてしまったような気がした。特に最後は、おいおいここで撃つのかいと思ってしまった。
 あと、中村文則氏にとってはこの後繰り返し書き込まれることになる、主人公の生育歴に関わる理不尽としか言いようのない部分も、少なくともこの作品においては唐突の感を否めないと思った。主人公の行動にどう影響を与えているのか、描き切れてはいないように感じた。
 特異な小説を書く才能を十分に感じたが、若さゆえの力任せにそのまま乗せられていくほど、わたしはもう若くはなくなってしまったのだと思った。

 「土の中の子供」の方は、さすがに芥川賞を受賞しただけのことはあって、全体が小説としてしっかり構成し切れていると感じた。ただその分、主人公の特異な精神状態や意識の流れに、すべてきちんとした謎解きというか、説明がつけられていることが衝撃性を弱めているようにも思われた。だが、ここに描かれた様々な「暴力」というのは、確かにこの作者の際立った特徴であり、誰もなかなかこんなふうには書けないだろうと感じた。
 インターネットでこの回の芥川賞の選評を読んでみると、ほとんどの選者が積極的には推していないにも関わらず、きわめて消極的に選ばれた受賞作だったことが判る。しかし、わたしには大部分がつまらないとしか感じられない芥川賞の中にあって、これは実に引き込まれて読み終わることができた数少ない作品だったと思う(ただ、わたしはもう若くはないから、この作者の作品はもうこれで終わりでいいかなと、もう少し読んでみようという気にはなれない気がした)。

 一つ気になったことがある。この二つの小説の主人公は、どちらも何かというと煙草を吸う。吸い過ぎるくらい吸うのである。ストーリーを運んでいく時に、作者は煙草に頼りすぎていないかと気になった。もしかすると、中村文則氏は煙草を全然吸わないなんてことはないだろうなと、ちょっと考えてしまった。案外、作者は清廉潔白なところにいて、小説の中でだけ煙草を吸っているのではないかという気がしてしまった。違っていたらごめんなさい。
 ただ、この二人の煙草の吸い方は、どう言ったらいいのだろう、つまりとても尋常とは思えない感じがしてしまって、嫌煙権などという馬鹿げた風潮がなかった私の若い頃ならともかく、現代の青年としてリアリティがあるんだろうかと考えてしまった。彼らの精神状態と深く結びついてる小道具の扱い方として、何かというとすぐに煙草に行ってしまう感じが、何となく嘘くさく感じてしまったということがあるのである。
by krmtdir90 | 2016-02-10 21:15 | | Comments(2)
Commented by yassall at 2016-02-11 15:40
私もつい最近になって中村文則に興味がわき、一作だけ読んでみました。きっかけになったのはエッセイで、日本の現代から感じ取っているものに「まともさ」を感じたからです。ただ、小説の方は「遮光」から入ったのですが、出口のない閉塞感には多少の共感を覚えるものの、そこに描かれた暴力が不自然に感じられて、疑問を感じました。ただ、その後作風を変え(本人の弁)たということです。「教団X」は面白そうだな、と思っています。
Commented by natsu at 2016-02-11 22:50 x
あまり断定的に言えませんが、高齢者が読んで面白い作家ではないなと思いました。いろんなところに「若さ」が顔を出していて、文章に関する才能は感じるけれど、歳を取ってから夢中になれる質のものではないと感じました。
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