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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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映画「俳優 亀岡拓次」

映画「俳優 亀岡拓次」_e0320083_216225.jpg
 けっこう期待して観に行ったのだが、結果は残念ながら「もう一つ」といった感じだった。なぜそういうことになってしまったのか。

 脇役俳優を主役に据える設定というのは、目の付けどころとして秀逸だし、ストーリーとしてもいろんな切り口が期待できそうな気がした。原作は同名の小説で、作者の戌井昭人という人は、芥川賞候補に5回も名前が出ながら、まだ受賞には至っていないということらしい。わたしは原作を読んでいないが、何となく興味惹かれる小説ではあるような気がした。
 映画のホームページにあるイントロダクションには、この映画は次のように紹介されている。

 俳優・亀岡拓次。それは映画やテレビドラマなど、誰もがどこかで見かけたことがある役者。だけどパッと名前が思い浮かぶことはない。泥棒、チンピラ、ホームレス……演じた役は数知れず。声がかかればどこにでも、どんな役でも駆けつける。37歳独身で、彼女もナシ。趣味はお酒。ひたすら撮影現場と酒場を行き来する日々を送っている。恋に奥手で、生き方は不器用。

 そんな男が恋をしたというのだから、これは面白い映画になりそうな気がするではないか。キャスティングもなかなかのもので、亀岡を演じた安田顕、脇役仲間の泰平をやった宇野祥平を始め、みんな実に存在感のある役者を揃えているのである。山崎努や三田佳子といった大物も含めて、みんな実にいい芝居をしていたと思う。
 だが、それが生かし切れていない、こんなにいい顔ぶれが揃っているのに、こんなにいい設定(ストーリー)が用意されているのに、それがちゃんと撮れていないと感じた。そして、それはすべて監督の責任に尽きるような気がした。
 監督の横浜聡子という人についてわたしは全く知らないのだが、何やら斬新さとか斜に構えることを意識しすぎているのではないかと感じられて、もっとオーソドックスな、自然体の映画の撮り方をしてもらいたいと思った。

 映画というものはまず何よりも映像であり、映像の基本は何よりもリアリズムである。カメラはまずすべてのものをリアルに映し出してしまう。そこのところを大切にしなければ、どんなテクニックも空しいものになってしまうということである。
 デビュー以来、若々しい「才気」といったものを評価されてきた監督のようだが、リアルな映像の部分が案外凡庸で、ただ写しているだけといった印象があり、編集についても映画の基本的な方法が判っていないような感じがした。

 たとえば、亀岡はいろんな地方の撮影現場に行き、夜は土地の飲み屋でくだを巻くのだが、その地方のローカルさを示すカットが全く用意されていない。亀岡が一方的に恋してしまう若女将(役名は室田安曇・麻生久美子)がいる居酒屋は、長野県の上諏訪にあるという設定なのだが、それを明確に表す外のカットが全く用意されていないから、その店はどこにあっても成立してしまうような気がしてしまうのである。
 店内に真澄の壜が置いてあっても、それだけでは全く不十分と言うしかなく、ローカルであることをきちんと描くというのはどういうことなのか、そういう映画のセオリーを、この監督は全く判っていないという気がした(山形でのシーンも同様で、夜の飲食店街などは東京のどこかと言われても全く違和感は感じなかった)。

 そういうところが丁寧に描けていないから、いろんなエピソードが重層的になっていかず、亀岡が小さなバイクを飛ばして東京から諏訪まで彼女に会いに行くことになっても、ストーリー的に全然盛り上がってこないのである。ついでに言えば、このバイクの走行シーンがスクリーンプロセスで処理されていたのには、唖然として言葉もなかった。
 いくら何でも、今どきスクリーンプロセスというのはないだろう。亀岡の夢?として描かれる2人のダンスシーンも同様の処理で、この映像的安直さにはどんな批評的意味もありえないと思った。

 お忍びで来日したという外国人監督によるオーディションのシーンなどもそうだが、この監督は映像のリアルということに対して全く勉強不足のまま、当人だけが斬新のつもりで安直な逃げの撮影をしていると思った。そのことに当人は気付いていないのだろうか。
 しがない脇役俳優の日常と恋を描くにあたって、その素材の面白さを考え抜いて、どう撮ればそれが生かせるのかといったことに対して、この監督はオーソドックスなリアリズムというものに、もっと謙虚な姿勢を持つべきではなかったかと思う。設定やストーリーが十分に面白いのだから、もっと正攻法できちんとした映画を撮るべきだったのではないかという気がした。
by krmtdir90 | 2016-02-16 21:11 | 本と映画 | Comments(0)
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