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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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ますむらひろしの北斎展(八王子市夢美術館)

ますむらひろしの北斎展(八王子市夢美術館)_e0320083_18144939.jpg
 八王子市夢美術館という存在は知っていたが、地元にもかかわらず一度も行ったことはなかった。ここで「ますむらひろしの北斎展」という興味深い展覧会をやっていることをmomさんのブログで知り、いい機会だからと散歩の途中で寄ってみることにした。

 これまで何となくこの美術館に足が向かなかったのは、何となく胡散臭い名前のせいもあったかもしれないが、これが入っているビルと隣接する東京電力のビル(調べたら多摩総支社となっていた)が繋がっているような感じになっていて、その入口が非常に入りにくい、よそよそしい雰囲気を漂わせていたことがあると思う。
 実は、わたしが散歩する別のルートにもう一つ別の東京電力のビル(こちらは多摩支店と言うらしい)があって、どちらも堂々たるビルなのだが、なぜかすべての窓や入口が白いロールスクリーンのようなもので塞がれていて、中の様子が全く見えないようになっているのである。敷居が高い感じと言うか、何となく部外者を寄せ付けないような雰囲気を漂わせている。普通の会社だと、中で社員が働いている様子とか、訪問者をオープンに迎え入れる感じとか、いずれにせよ外に向かってどこか開かれた部分が感じられるものだが、東京電力のビルにはそういうところが全くなく、その閉ざされた感じというのは、ちょっと尋常ではない印象を持っていたのである。

 いきなり話が関係ない方向に行ってしまったが、夢美術館の入口の入りにくさというのは、この東京電力のビルの閉鎖的な雰囲気が関係していたと思っている。美術館そのものは、ビュータワー八王子という28階建てのUR賃貸マンションの2階にあり、東京電力とは何の関係もないものだった。
 で、観覧料が一般500円のところ、65歳以上のシニアは半額の250円というところが良かった(年齢を証明できるものの提示を求められなかったのも良い)。

 さて、本題の展覧会の方だが、思いがけず面白くて、時間を忘れてじっくりと鑑賞してしまった。わたしはますむらひろしのマンガをちゃんと読んだことのない人間だが、ヒデヨシという(愛すべき)キャラクターは知っていたし、アタゴオルという不思議な世界を描いたり、宮沢賢治の童話を猫を登場人物にしてマンガ化したりしていることは知っていた。今回、ますむら氏が山形県米沢市の出身であることを知り、そういえば確かヨネザアドなんていうのがあったことも思い出した。
 今回集められているのは、葛飾北斎の富嶽三十六景を始めとする名所図絵の中に、ヒデヨシやアタゴオルの登場人物たちを紛れ込ませた、一種の模写のような不思議な作品群である。パロディというようなものではなく、あくまでも北斎に対するリスペクトに基づいた創作が行われている。

 冒頭に載せたチラシに採用されているのは、富嶽三十六景の中でも特に有名な「神奈川沖浪裏」だが、舟の舳先にヒデヨシを配したり、漁師たちを猫の姿に変えたり、船縁や波の先端にタコを紛れ込ませたりしている。北斎の原画の構図や描法、色彩などをかなり克明に写しながら、かなり大胆な換骨奪胎を行った部分もあるようだ。
 全体として、北斎の描いた浮世絵世界は厳然としてそこにあるのに、ヒデヨシたちますむらひろしの登場人物(猫たち)が、その中にさりげなく(しかし当然のように)存在してしまう可笑しさ。決して存在を主張するというのではなく、ちょっと存在させていただいたという感じなのだが、それでいながら見ていると、ヒデヨシたちは妙に馴れなれしい感じでその風景の中にすっかり馴染んでしまっているのである。ヒデヨシの大胆不敵だが憎めない感じの笑顔が、まあまあまあまあなどとうそぶいて通り過ぎていく気分である。

 一つ一つの作品に、ますむらひろし自身の解説というか、詳細なコメントが付けられていた。北斎の原画をどのようなものとして捉え、それをどう自分の世界と関連付けていくかといったことについて、非常に率直で具体的な言及がなされていた。この文章がどれも面白くて、読んでいるとついつい長くなって、後から来たお客に何度か抜かされてしまった。まあ、終わりの頃には疲れていい加減にしてしまったが、ますむらひろしが北斎という天才の作品と正面から対峙する様子が伝わってきて、興味が尽きなかった。
 これらの作品は、2008年から2013年にかけて雑誌に連載されたイラストだったようだが、何とも楽しい試みをしたものである。わたしはよく知らないが、ますむら氏が創造したヒデヨシやアタゴオルの世界が、きわめて個性的で広がりのあるものだったことが証明されているような気がした。展覧会では北斎に行く前に、アタゴオルシリーズの短編マンガの原稿の幾つかや、アタゴオルに関わるイラストなどが展示されていたので、その世界の気分というようなものを事前に把握できたのは、ずいぶん鑑賞の助けになったと思う。

 付けられたコメントの内容が、北斎の原画の解釈や技法の解説になっているところもあり、個人的には北斎の再発見というようなところもあった。
 北斎は確か90歳ぐらいまで生きて、その最晩年には信州・小布施の高井鴻山の許に滞在して、多くの肉筆画を残したのではなかったか。小布施に行った時、北斎館を始め北斎の足跡をいろいろ見て回ったことを思い出した。たぶんカタログなんかがどこかにあるような気がするが、例によって見つけるのは難しいだろう。
by krmtdir90 | 2016-03-05 18:15 | 日常、その他 | Comments(2)
Commented by mom at 2016-03-07 08:19 x
楽しんでいただけて何よりです。
私にとっても期待以上の展覧会でした。
北斎の風景のとらえ方が鋭いのに対して、
ますむらさんのとらえ方が優しいのが印象的でした。
Commented by natsu at 2016-03-07 10:03 x
momさんの言うように、ますむらひろしの優しさと言うか、あたたかい雰囲気が印象的でした。けっこう観客が入っていて、根強いファンがいるんだなと思いました。
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