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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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映画「日本で一番悪い奴ら」

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 いかにもB級映画の雰囲気が漂うタイトルがいい。最初に配給の東映と日活のマークが出て、何となく安心感とワクワク感が高まる。娯楽映画なのだ、これも。
 白石和彌監督は2013年の「凶悪」という映画で注目された人らしいが、これは見ていないので力量のほどは不明である。今回は綾野剛主演ということで見てみようと思ったのである。このところ映画館通いを再開して、まだそれほど本数を見ているわけではないが、「リップヴァンウィンクルの花嫁」「64(ロクヨン)」に相次いで出演し、いずれも印象的な役を演じていた。調べたら今年34歳、いま最も旬(しゅん)な若手俳優の一人であるらしい。

 この映画は2002年に北海道警で実際にあった不祥事を題材としている。現職の警察官が覚せい剤使用で逮捕され、暴力団員とのつながり・種々の違法捜査・拳銃購入・覚せい剤密売といった、警察官にあるまじき悪事に手を染めていたことが明らかになった。背景には北海道警の組織的関与があったのではないかと言われたが、結局逮捕されたのは刑事一人だけで、彼が懲役9年の刑に処せられて幕引きとなった。この諸星要一という刑事を演じたのが綾野剛である。
 綾野剛という俳優は、若い人間が持つ内面の相反する様々な要素、強さ(強がり)と弱さ、得意(粋がり)と不安といった矛盾を、きわめて繊細な表情で表現できる役者だと思う。この映画は諸星という刑事の26年間にわたる変遷を描いていくが、当初の初々しい正義感が周囲の影響を受けてどんどんねじ曲がっていく様を、年譜を辿るようにして(何年何月というような字幕が出る)正面から見詰めていく。綾野剛は諸星の年齢や体型変化を表現するために体重を10キロほど増減させたらしいが、見事な役作りでこの男の軌跡を演じ切ったと思った。

 世の中には思った以上に役柄が限定される役者が多い中で、彼はどんな役柄にも存在感を与えることのできる役者なのだと思った。前2作のあとで、この映画のような思いがけない役もやりこなしてしまうところに、彼の役者としての幅を見る気がした。
 諸星という役は、周囲に流されて次々に悪に嵌っていきながら、当人は道警のエースなどと持ち上げられいい気になっている、ある意味では愚かと言ってもいいような短絡的な男である。しかし、綾野はそういったマイナスの要素をきわめてストレートに演じながら、一方にそれが彼なりの正義感の発露であったというような、なぜか憎めない少年性のようなものもしっかり漂わせてみせるのである。そのためこの映画は、一面的な告発映画や無内容のアクション映画に堕することなく、一種の青春映画と言ってもいいような不思議な感覚を後に残すことに成功したように思う。
 諸星と北海道警がやったことは擁護しようのない悪事なのだが、諸星という男一人を切り離して見てみれば、そこには一人の純朴な青年が辿る必死な生の軌跡だけが見えているのである。

 もちろんそれは、そういうふうにこの映画を撮った監督・白石和彌の手柄なのだが、綾野剛という役者の存在も大きく寄与していたことは確かなことだと思う。また、若い諸星に決定的な影響を与える先輩刑事・村井をやったピエール瀧や、その助言に従い諸星が裏社会に作ったS(スパイ)の3人の存在感も素晴らしいものだったと思う。
 3人とは、地元の暴力団幹部・黒岩の中村獅童、覚せい剤の運び屋・太郎のYOUNG DAIS、盗難車バイヤーのパキスタン人・ラシードの植野行雄である。歌舞伎界出身の中村獅童は別にして、YOUNG DAISは本来はヒップホップ界に知られたラッパー、植野行雄は(ブラジル人とのハーフで)デニスというお笑いコンビの芸人だったようだ。このキャスティングがまさに絶妙といった感じで、諸星が彼らと絡むシーンは、背後に暴力を孕んでいながら少年たちのじゃれ合いのような親密な雰囲気を漂わせ、この映画が危うい青春映画の気配を感じさせる力にもなっていたと思う。

 中村獅童の存在感は大きかった。彼は「起終点駅 ターミナル」でもいい雰囲気を出していたが、綾野剛は彼と演技で対峙できたことが大きな力になったのではないかと思った。かつての東映ヤクザ映画(現代物)を彷彿とさせるような、そこにいるだけで醸し出される何とも言えない存在感(ヤバイ感じ)は並みのものではない。
 まだ初心者だった諸星が、単身組の事務所(倉庫のような所)に乗り込み、黒岩と初めて出会って対決するシーンは素晴らしかった。緊張して諸星が待つ部屋に、黒岩がニヤニヤしながら「はい、こんにちわ~」と軽薄な口調で入って来るところから、それぞれの思惑を持ったやり取り(押し問答)のあと、いきなりテンションMAXで「何だとこの野郎」的な怒鳴り合いになる。職業柄?こうなれば絶対に負けないヤクザを向こうに回して、諸星も必死の大声を張り上げて後に引かない覚悟を見せる。その危険な一本気に黒岩の表情がふっと緩み、諸星を認めてSとしての兄弟分になることを決める。この一連の中村獅童の演技と存在感、そしてそれを全力で受け切った綾野剛の演技と表情、特に表情のリアリティは(強さと弱さが交錯し)凄かったと思った。

 諸星が覚せい剤密売に手を染め、覚せい剤密輸と拳銃密輸の計画が頓挫してみずから覚せい剤に溺れていく、このあたりの描写はテレビではとてもやれないだろうと思ったが、映画でもここまでやるのはなかなか難しかったのではないか。ましてや、警察組織の中で現実に起こった事件の映画化である。ただ、この映画の方向性が、事件を起こした主人公や警察組織を一方的に断罪したりせず、とことんエンターテインメントに徹することで、突き抜けた爽快感と苦い後味を残すことに成功したのは、制作者たちの見事な作戦勝ちだったという気がした。
 こういう映画、けっこう好きである。
by krmtdir90 | 2016-06-26 11:43 | 本と映画 | Comments(0)
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