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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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映画「勝手にしやがれ」「気狂いピエロ」

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 十日ほど前、初めて新宿のK's cinemaで映画を見た時、ここで間もなくこの2本が上映されることを知り、これは見に来ることになるだろうなと思った。公開が始まると、nakamura-enさんが早々と感想をアップされて、先を越されてしまったのだが、遅ればせながらわたしも26日(火)に見に行って来た。K's cinemaは定員100名足らずの小さな映画館だが、整理番号順に入場する自由席制なのも好ましく、今後贔屓にしたい映画館だと思った。

 わたしにとって、ジャン=リュック・ゴダールは特別に重要な監督の一人である。だが、この2本の映画の記憶にはかなりの差がある。
 「気狂いピエロ」が制作されたのは1965年だが、日本で公開されたのは1967年7月である。劇場は当時のアートシアター2館が使われ、わたしはその時、いまは無き新宿文化でこれを見ている。その後も名画座などで何度も見ていて、そういう意味ではこの映画は完全な同時代の映画と言っていいように思う。文句なしに懐かしい映画なのである。
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 一方「勝手にしやがれ」は制作も日本公開も1960年であって、わたしが見たのはずっと遅れた1970年になってからである。たぶん見たのも1回だけで、残念ながらこの映画を同時代とすることはできなかったということになる。

 ゴダールはわたしの学生時代、映画ファンであれば何を置いても追いかけなければならない監督とされていた。だから、60年代のゴダールの映画はほとんど見ていると思うのだが、いま記憶に残っているのはやはりこの2本である。その個人的な意味合いや重さには差があっても、やはりこの2本は凄い映画だということを今回確認できたと思った。「勝手にしやがれ」はゴダールの長編デビュー作、5年後の「気狂いピエロ」は10本目の作品ということになるらしい。
 2本の映画は、同じジャン=ポール・ベルモンドが主演という以外にも、きわめて似通ったところの多い(双生児のような)映画だということが理解された。「勝手にしやがれ」のミシェルは映画の終わりに死んでしまったが、生きて5年後を迎えていたら、「気狂いピエロ」のフェルディナンになってもう一度同じようなことを繰り返すのだと思えた。

 2つの物語は細部は異なっているが、ベルモンド演じた2人の男の生き方の根っこにあるものは、驚くほど似たものなのだということが判った。それは、「気狂いピエロ」で新しいヒロイン(アンナ・カリーナだ!)とせっかく生き直すチャンスをもらったのに、結局同じような生き方の袋小路に嵌っていき、同じようなヒロインの裏切りによって、同じような自爆的な死を迎えることになるということである。5年の歳月を経ている分だけ、フェルディナンの絶望の方がより深く、より滑稽にならざるを得ないということなのだろう。
 ある意味で滑稽は悲しみと同義だが、またある意味、愚かさと同義でもある。若いころ見た時にはあまり掴めていたとは言い難い、ベルモンド(ミシェルあるいはフェルディナン)とそれぞれのヒロインとの会話のニュアンスが、今回はよく判ったような気がした。その感覚というか生理というか、ミシェルとパトリシアの、フェルディナンとマリアンヌの、いくら会話しても男と女がどうしようもなくすれ違っていくもどかしい感じである。
 今回、字幕がすべて新訳になったことも関係していたかもしれないが、わたしが年を取ったことも大きかっただろうと思った。

 それにしても、昔どこまで理解できていたか判らないが、映画の各所にちりばめられた言葉の豊穣さに目を見張る感じだった。昔はコラージュという言い方がされていたと記憶するが、一見無造作に並べられたように見える言葉が、これもまた突飛に見える様々なイメージとつながりながら、次第に響き合っていく感じが感じ取れたように思う。
 それともう一つ、昔は飛躍するイメージや斬新なカットの重ね方に目を奪われていたのかもしれないが、いま冷静になって見ると、基本を成しているストーリーの明快さというものを強く感じた。筋を要約するのが非常に容易なストーリーだということが判った。若い時はたぶん、華やかな目くらましに目を回してしまったのだと思った。
 単純なストーリーであることを否定的に見ているのではない。単純なストーリーをここまで豊かな映画に仕上げてしまうことを素晴らしいと思ったのである。豊かさを複雑と誤解していたところがあったのかもしれない。ゴダールは単純明快な人間だったのかもしれない。

 ジーン・セバーグとアンナ・カリーナはいずれも素晴らしかったが、何度も見ている分、アンナ・カリーナの方が思い入れがあり懐かしかった。「わたしに何ができるの、何をすればいいの」の繰り返しとか、「わたしの運命線」の歌と踊りとか、「優しくて、残酷」から始まる「ピエロ」の詩とか、そして何より最後の「ごめんね、ピエロ」に至るまで。
 有名な話だったが、「気狂いピエロ」を撮った時には、ゴダールとアンナ・カリーナの結婚はすでに破局を迎えていた。この映画の中のアンナの美しさはゴダールの思いの投影だと言われた。実際、ゴダールのカメラがどこまで見詰めても、彼女のくるくる移り変わる表情の奥に何があるのかは判らないのである。マリアンヌの影の部分が見えないままに、破滅に向かって突っ込んでしまう「ピエロ」の純情、と言ってしまったらいささか単純化が過ぎるかもしれないが、それこそアンナ・カリーナの美しさが生み出したものだったのである。

 ヌーヴェルヴァーグと呼ばれた監督たちの中で、若い頃はフランソワ・トリュフォーの「わかりやすさ」を一番に感じていたところがあったのだが(「突然炎のごとく」など、「わかりやすさ」と言うより「理解できる感じ」と言うべきか)、今回、ゴダールが実はこんなに「わかりやすい」監督だったと判ったことが収穫だった。映画の撮り方ということで言えば、ゴダールのやった様々な斬新なことが、時代とともにごく当たり前の撮り方になったのだとも思った。
 そして、そうなってもこの2本の映画がまったく色褪せて感じられなかったのは、あれだけ個性的に作家性を前面に出していたように見えたゴダールの映画が、実はボーイ・ミーツ・ガールの単純明快なストーリーによって、ジーン・セバーグとアンナ・カリーナ、そしてジャン=ポール・ベルモンドの魅力を鮮やかに画面に定着させていたということがあったのだと思った。幸福な再会だったと言うべきだろう。
by krmtdir90 | 2016-07-27 19:00 | 本と映画 | Comments(0)
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