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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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映画「築地ワンダーランド」

映画「築地ワンダーランド」_e0320083_14495636.jpg
 築地市場を捉えたドキュメンタリー映画である。築地市場という名前は知っていても、そこで実際に毎日どんなことが行われていて、そこがどんなふうに動いている場所なのかといったことは、確かにまったく知らなかったことがわかった(真夜中の0時頃にはもう市場の一日がスタートしていて、それぞれの場所でどんどん仕事が始まっているとか)。監督の遠藤尚太郎と撮影スタッフは、1年4ヶ月にわたって築地に密着し、計602時間分という膨大な撮影収録を行ったという。これは、映画がデジタルになったからこそ可能になったことなのだろう。
 しかし、こんなふうに膨大な撮影素材を手に入れても、これをどんなふうに編集するのかは非常に難しかったのではないだろうか。見ているうちに理解されたことだが、築地市場にはそれこそ実に多様な構成要素があり、それを知れば知るほど、全体像を描くことはほとんど不可能と思われたのではないかと思った。2時間足らず(上映時間は110分)にまとめるためにどういう切り口を作るのかといったことは、この不可能との格闘というところがあったのではないだろうか。

 見に行く前には、失礼ながらテレビなどにもよくありそうなドキュメンタリーではないかと思っていた。だが見てみると、これほどのものはやはり映画でなければありえないことが十分納得された。築地市場というものの核心にあるのが何なのかを見事に描き出していたと思った。撮り溜めた602時間分の映像は大半が捨てられてしまったのだが、この取捨選択が実に的確だったということなのだろう。ドキュメンタリー映画として、これほど成功したものはそうはないのではなかろうか。
 凡百のドキュメンタリーでは、説明的シーンや説明的ナレーションが過多になるのをよく見かけた気がするが、この映画ではそれらは文字通り必要最小限に絞り込まれていて、映像が切り取ったものそのものに語らせる姿勢が一貫しているように思われた。そこに映っているものが(つまり、この映画が選び取った映像が)、実に雄弁に多くのことを語っていたと思う。実に面白く、魅力的なシーン(映像)が積み重ねられていたと感じた。

 この映画は、築地市場に特有の職種であるらしい「仲卸(なかおろし)」と呼ばれる人たちに主たるスポットを当てている。この名前は聞いたことがあっても、実際に彼らがどんなことをしているのかは知らなかったし、彼らのプロ意識とか仕事に対する矜恃といったものは想像もできなかった。彼らにとっては何でもない日常やどうということもない言葉などを、こんなふうに生き生きと切り取ることができたというのは、そうなるまでに撮影スタッフの並々ならぬ事前準備(関係構築の努力)があったことが窺われた。
 この仲卸の人たちの仕事ぶりや、買い出し人たちとのやり取りの一部始終は大変興味深く、何とも粋で格好いいと思った。仲卸の彼らが最も嫌がる言葉は「いい魚」という表現だとか、彼らの仕事の根幹となる「目利き」とは、必ずしも魚の善し悪しを判断することではないということとか、知らなかったが、聞いてみるとなるほどと思われるようなことがこの映画の中にはたくさんあった。この巨大な築地市場を回しているのが、この仲卸を基点とするきわめて人間臭い関係の網の目であることがよく理解された。それを記録したことは、この映画の大きな成果だと思った。

 映画の制作者たちの間には、この映画を世界に向けて発信したいという意図が色濃く存在していたようだ(正式タイトルはTUKIJI WONDERLANDであり、ナレーションは英語である)。世界文化遺産になった日本の食文化との関連で、この築地市場が作り上げたシステムは、いまやそのくらい世界の注目を集めているということらしい。そういう意味で、この映画が描き出したものは、徹頭徹尾きわめて日本的なものであるにもかかわらず、恐らくそれ故にだろう、外国の人たちにもよくわかる内容を持っていたのではないかと思った。
 この映画が豊洲移転で揺れる昨今の情勢などにはほとんど頓着せず、築地を最も築地たらしめている人々のあり方だけに焦点を絞り、それを後世に伝えることに徹したことは素晴らしいと思った。この場所でこんなことが延々と続けられ、受け継がれてきたということを記録した価値は実に大きいものがあるのではないだろうか。
by krmtdir90 | 2016-10-26 14:51 | 本と映画 | Comments(0)
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