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高倉健はもういないのだ。このコンビが輝いていたのは、そこに高倉健がいたからだったのかもしれない。名作「駅 STATION」は1981年、「鉄道員(ぽっぽや)」は1999年である。あまり年齢のせいにはしたくないが、それも関係ないとは言えないかもしれない。 見ながら、ストーリーに説得力がないなと思った。脚本は青島武・瀧本智行となっていて、完全なオリジナルストーリーのようだった。過去と現在が複雑に絡み合うのはかまわないが、そのために展開が説明的になってしまうところが多かったように思う。降旗も木村も、彼らとしてはずいぶん説明的になっていて、説明的に描かなければならないことが彼らの縛りになっていたように感じた。 「駅 STATION」の脚本は倉本聰だった。「居酒屋兆治」(1983年)には山口瞳、「鉄道員」には浅田次郎の原作があった。これらの脚本では、高倉健や周囲の人間が体現するものがはっきり設定されていて、それがストーリーの中に実に自然な形で埋め込まれていた。降旗康男と木村大作は、それを引き出しながら最良の映像を組み立てていくことを考えれば良かったのだ。 残念ながら今回の「追憶」では、登場人物が抱え込んでいるものがあまりしっかり書けているとは言えず、それなのに、それをストーリー展開とともに説明的に提示することが求められていた。そのため監督の降旗もカメラの木村も、そういうカット割り、そういう絵作りに傾かざるを得なかったのではないか。こうなっては、彼らの作る映像の魅力は半減してしまう。 キャスティングでは、現在の日本映画界を代表する実力派を並べているということらしいが、長いこと映画から遠ざかっていたわたしとしては、彼らの出演作がまったく浮かんでこないのだから何とも言いようがない。それぞれが存在感のある演技をしていたと思うが、中で四方篤役の岡田准一だけはちょっと眼光鋭くやりすぎたのではないだろうか。内面の葛藤は判るが、これでは怖い人という印象が強く出過ぎて納得できなかった。田所啓太役の小栗旬はいい雰囲気を出していると思ったが、脚本がそれを生かすように書けていないと感じた。 問題は、いくら演技力のある役者を連れて来ようと、脚本が彼らをきちんと設定できていなければどうしようもないということである。彼らが過去に犯した罪を忘れていないのは事実だとしても、新たな事態が彼らにどういう局面を生んでいるのかが的確に書けていないように感じられ、彼らの演技から自然さを削いでしまったように感じられた。これは恐らく脚本設定の曖昧さと、そこで交わされるセリフが書けていないということではないかと思われた。 結局、殺人事件の犯人をこんなところに設定してしまう安易さは言うに及ばず、3人の少年たちにとって忘れようのない存在だった涼子(安藤サクラ)を事故で記憶喪失にしてしまうなど、ストーリーのご都合主義がちょっとひど過ぎるということなのだと思う。納得できる必然性を持たないストーリーは、どんな才能であっても表現しようがないということである。 仮に、大人になっても過去を引きずり続けた3人の再生のドラマとしたかったのなら、川端悟(柄本佑)を死なせてしまっては何にもならないし、残った2人だけに未来を開いてやるのでは不公平と言うものである。そもそも、ストーリーの組み立てそのものが乱暴だし、何を描きたいのかがはっきりしていないように思われた。 本日初日で新聞に大々的な広告を打っていたが、作品そのものがこれでは困ったものである。もう少し柔らかく書くつもりだったが、どんどん厳しくなってしまった。まあ、仕方がないね。 (立川シネマシティ1、5月6日)
by krmtdir90
| 2017-05-06 18:25
| 本と映画
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