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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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高校演劇2017・埼玉県大会(2017.11.18・19)

 今年も埼玉県高等学校演劇中央発表会を観に彩の国さいたま芸術劇場に行ってきた。10校の舞台を観せていただいたが、そのうち何校かについて感じたことを書かせてもらう。

 最初に秩父農工科学高校「Solid Black Marigold」を取り上げたい。昨年までわたしは農工の舞台の好意的な観客ではなかった。舞台作りの総合的力量はずっと認めているが、単刀直入に言ってしまえばKさんが書く台本が好きになれなかったのである。だが、今年は違った。
 もしかすると、今年は全国や国立があって余裕がなかったのかもしれない。Kさんからすると、今回の台本はあまり満足の行くところまで持って行けなかったということかもしれない。いつになく素材が生のまま出ている感じがして、作者の問題意識などもかなりストレートに並べられてしまった印象があった。未整理と言ったらいいだろうか。それでももちろん、最後にはそれなりのまとめはつけていて、それはさすがだなと思う一方で、ちょっと意地悪な言い方になるが、広げたものを懸命に回収しようとしているKさんという人が見えているのが面白いと思った。いつもならもっとかっちりとコーティングを施し、もっとガードを固めて隙を見せない世界を組み立てるのにと思った。そう考えると、今回の台本は甘かったのだろうか。
 わたしは褒め言葉のつもりで書いているのだが、今年の台本には幾つか破れ目のようなところがあったと思う。そこが実は、わたしが共感できる入口のようになっていたのではないかと思う。突き詰めるばかりがいいとは思えないのである。本当はまた誰か死ななければならなかったのかもしれないが、そこまで追い込まない(追い込めなかった?)今回の台本にKさんの可能性があるような気がした。ラストで、カナトの呼び掛けに誰一人呼応する者がなく、背後にみんなが無表情のまま立っている「絵」は怖かった。

 あとは付け足し。シリア?問題とイジメ問題とを重ね合わせる視点は思いがけず、なるほどと思ったが、台本としては取って付けた感じが拭えず、書き切れていないと思った。問題があの女の子(メルバ?)一人に閉じているところが弱いのではないか。あと、装置がなぜ廃墟なのかということがここで判るのだが、装置に役割を負わせ過ぎているようにも思えた。物語の構造からすれば、当初の装置はもっと教室的であるべきだし、それが突然廃墟のように見えてくる(実際にどうやればいいのかは判らないが)、つまり「教室→シリア」でないと衝撃力は生まれないと思う。
 もう一つ、マリーゴールドの正反対の花言葉が効果的に使われていたが、黒いマリーゴールドの使い方は成功しているとは思えなかった。「黒=絶望(親愛の情の死滅)」というのは図式的過ぎて、あまりいいとは思えない。あと、ラストでモニター画面にマリーゴールドが映し出されたが、これが黒くなったら嫌だなと思っていたが、そうはならなかったのでホッとした。いまは簡単にああいう映像が使えるのかもしれないが、果たしてそれが効果的だったかどうか。わたしの時代なら、無数のマリーゴールドの花を降らせるところだなと思った。

 今年一番びっくりしたのは越谷南高校「宵待草」だった。Yさんが台本を書くというのは聞いたことがあったが、こういうものを書くとは思わなかった。まったく思いがけない舞台で、楽しんで観させてもらった。ただ、こういう背伸びを認めない審査も多いから、関東は無理だろうと思っていたが、予想を覆して最優秀に選ばれたのは本当に良かった。
 わたしは高校生の無謀な挑戦というのが大好きで、ずいぶん跳ね返されてきたけれど、Yさんも生徒たちもそれが無謀であることを判ってやっているところに共感を覚えた。どうやったところで高校生には手に負えない芝居というのはあるわけで、その前提の上で、変に判った気にならずに、正攻法でそこに近付こうとしているところが素晴らしいと思った。最も困難が伴うリアリズムでやろうとしているから、足りないところはまだまだいっぱいあるけれど、それはまだやれることが無数に残っている(終わりはない)ということでもある。これは楽しい。

 以下はこれも付け足し。Yさんに少し話を聞いたら、この台本はもともと卒業生のために書いた2時間超の台本をカットしたものなのだという。それでなるほどと思ったのだが、もう少しカットの仕方は工夫できるのではないかと感じた。わたしは自分では書けなかったから、既成の2時間超を毎年カットしていたような気がする。だからカットの難しさは承知しているつもりだが(自分の本をカットするのはまた違った難しさがあるのかもしれないが)、時間の経過も含めて展開のぎこちなさはまだ修正できるような気がした。時代の雰囲気をどう入れていくか(残すか)が鍵なのだと思うが、これでもう一苦労というのは作者冥利に尽きるのではないだろうか。
 あと、装置のことで少々。上手が混み合い過ぎてバランスが悪かった。上の大会は広い舞台になると思うから(芸術劇場でも可能だったはずだが)、台上はもっとフラットにして、役者が複雑な動きをしなければならない作りは直した方がいいような気がした。もう一点、一番不満だったのはカフェのドアの作り。外から来た役者はここで後ろ向きになるしかなく、中の人はここで一度見切れてしまうしかない。このドアを入ることと中に迎え入れることとが展開上大きな意味を持つ箇所があるのだから、ドアを挟んだ両者がしっかり見える構造を(どうすればいいかは判らないが)工夫する必要があるのではないだろうか。

 新座柳瀬高校「Lonely My Sweet Rose」は残念だった。だが、上記2校を上と見る審査の観点はそれとして理解できるものだったと思う。今回の柳瀬の舞台はもちろんコメディではないが、では何を作ろうとしたのかが、台本としてもう一つ鮮明にできなかったということではないかと思った。事前のツイッターでは「王子さまとバラの儚い(切ない)恋」とまとめていたが、本当にその視点にまとめ切れていたかどうか。ラストシーンを視覚的に豪華にする方向でやっていたが、照明やドライアイスのない状態で王子さまとバラの花に何をさせたかったのかがはっきりしなかったような気がした。
 最後が「わー、きれい」だけで終わるのでは、演劇的なカタルシスとは言えない。「恋」に着目するのであれば、旅立つ前の王子さまとバラのやり取りの部分と、王子さまがバラの気持ちを理解できずに自分の星を後にするあたりを、(単純に説明的なシーンを増やせということではなく)もう少し拡大してみる必要があったような気がした。そこが明らかにされて初めて、その後の王子さまの「気付き」の過程がドラマチックなものになるのではないか。
 素材が有名な「星の王子さま」だったことも影響したのか、いつもは原作から大きく飛躍してみせるMさんの魅力があまり発揮できていなかったような気がした。今回、単サスを始めとする照明効果に頼り過ぎてしまったこともあって、そういう台本の「弱さ」がかえって際立ってしまったのかもしれないと思った。だからといって、「星の王子さま」を何度も舞台化したと言っていた審査員の台本が、Mさんの台本より優れていたという気はまったくしないのだけれど。

 最後に芸術総合高校「朝がある」についても触れておく。率直に言わせてもらうと、全国に行った「…アントニン・レーモンド建築…」の呪縛に囚われるのはもうやめた方がいいのではないか。あの舞台を最初に観た時、わたしは全体が「スタイリッシュ」に頼るところがどうしても好きになれなかったのだが、その後全国まで行ったということは、役者たちの芝居がその後格段に良くなったということだろうと思っている。
 今回の台本は、そもそも役者たちのセリフのやり取りがほとんど(まったく)ないのだから、芝居として良くなる要素は最初からないと言うしかない(どこまで行っても、モノローグとパフォーマンスでしかない)。潤色・再構成とあったが、その台本がつまらないというのがすべてだった気がする。それを照明などの「見た目」で誤魔化していただけで、「スタイリッシュ」としても「…アントニン・レーモンド建築…」にははるかに及ばないと感じた。これを3位とした審査結果には違和感があるが、まあ、それは言っても仕方がないことなのでここまでにする。
by krmtdir90 | 2017-11-21 22:26 | 高校演劇、その他の演劇 | Comments(4)
Commented by yassall at 2017-11-22 10:28
何となく書き始めてしまった私と違って、見どころと要所を押さえた劇評だと思いました。さすがです。越谷南の芝居はもう一度最初から見たら印象が違ってくるかも知れません。芸術総合は未完成さのゆえに部員の顔が見えたことに引かれました。審査員のいう「詩の時間」とnatsuさんのいうドラマの再発見の必要という問題は地区でも部員たちにお話させてもらいました。秩農の芝居はテロの問題が先にあったのではないかと思いました。復讐の連鎖と爆弾の下にいる人々への「共感」の欠如が自分たちの日常にもあるのではないか、と。そこを気づかせようとしたことに私は「希望」への探求をみたということだと思います。では、また。
Commented by krmtdir90 at 2017-11-22 16:05
コメントありがとうございます。
テロの問題が先にあったというのは、そうかもしれないなと思いました。でも、それを身近なイジメ問題に重ね合わせようとしたところに、この作者独自の鋭い視点が感じられて感心しました。
やはり高校演劇は面白くて離れられないですね。
Commented by at 2017-11-23 07:34 x
ご観劇&劇評ありがとうございました。
やっぱりこちらサイドの物語はなかなか上手くいきません。
また、頑張ります。
Commented by krmtdir90 at 2017-11-23 10:35
結局、舞台に上げて実際に上演してみないと見えてこないことというのはあるからね。
まだまだこれからです。頑張ってください。
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