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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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映画「リュミエール!」

映画「リュミエール!」_e0320083_2050891.jpg
 実に面白かった。今回はそれだけでいいような気もするが、それでは記録にならないから、一応少しだけ書いておくことにする。

 ルイとオーギュストのリュミエール兄弟がシネマトグラフを発明したのは1895年だという(明治28年だ)。同年3月19日に彼らは初めての撮影を行い、3月22日に初めての上映を行ったらしい。有名な「リュミエール工場の出口」がそれだ。12月28日にはパリで初めての有料上映会を開催し、動く写真は現代につながる映画というものとなった。
 彼らはカメラマンを雇い、世界中で撮影を行った。当時のフィルムは1本が17メートル、時間にすると50秒ほどのものだった。1895年からの10年間で、リュミエール兄弟は1422本の映画を製作した。それらがすべて保存されていたことが何よりも素晴らしい。
 本作はこの中から108本を厳選し、4Kデジタル技術で復元したものを見せてくれる。当時の姿そのままに甦ったそれらは、今見ると様々な発見に満ちていて、実に面白かったという言葉しか浮かんでこない。こうして映画の始まりに立ち会えるというのは素晴らしいことだ。

 本作は108本を11の章に分け、ある程度のまとまりを作りながら1本1本並べていってくれる。監督・脚本のティエリー・フレモー(リヨンにあるリュミエール研究所の所長だという)がエスプリの効いたナレーションをつけてくれるので、それぞれの見どころもよく判り、終始楽しく観ることができた。音楽とナレーション以外に余計なことを付け加えず、ただ並べることに徹してくれたことが良かったのだと思う。
 以下はナレーションが教えてくれたことだが、初期の段階から、リュミエール兄弟には画面の構図に対するきわめて繊細で高度な意識があったことが確認される。主眼は動くものを捉えることなのだが、どのようにカメラを置けば最も効果的かということが常に考えられている。カメラがパンすることはまだできなかったから、固定された構図の中を動くものがどう動いていくかが計算された。対角線を進んで来る「ラ・シオタ駅への列車の到着」がその代表例だ。
 画面を3つのシネスコ画面のように使って、下段に川岸で横並びになって洗濯する女たち、中段に土手で話をする男たち、上段にさらに上の道を往来する馬車を捉えた構図には驚いた。その斬新さは現代でもまったく色褪せずに通用するものだと思った。
 とにかく、カメラの位置取りに関しては、動くものの50秒という時間もしっかり計算されていて、どれを取っても見事と言うしかなかった。彼らは絵画や写真から出発しているから、動くものが撮影対象になっても、構図に対する意識は一貫して重要なものと判っていたのだろう。これは実に新鮮な発見だった。現代の映画はもしかすると、動くものに惑わされ過ぎて(カメラも自由に動けてしまうので)このあたりが少しお留守になっているかもしれないと考えてしまった。

 動けないカメラを動くものに固定する方法はすぐに工夫された。移動撮影は当時パノラマと呼ばれたようだが、リュミエール兄弟はここでも実に様々な試みをしている。上昇する気球から撮影された下界の映像は、当時の人々を驚愕させたに違いない。
 パンやズーム、カット割りなどはまだなかったが、50秒の中で対象をどう描くかという工夫は随所に行われたようだ。展開は成り行き任せというものもあるが、意図的な演出が行われているものも多く見られた。50秒ではストーリーは語れないが、ストーリーを感じさせることはできる。彼らが行っている演出は素朴なものだが、そういう意識が早くも芽生えていることは驚きだった。
 新たに手にしたシネマトグラフという技術は、最初は驚異の見世物として大衆に受け入れられたのだったが、作り手のリュミエール兄弟はそこで満足する気はなかったのだ。彼らのカメラは世界中に出掛けて行ったが、そこで捉えるものは基本的に人間の様々な姿だった。絵画や写真は風景なども興味の対象としたが、シネマトグラフは何よりも人間に興味を示すものだったのである。人間をどう描くのかというところに、彼らの目が向かおうとしていることが読み取れた。本作が見せてくれた108本は、そうした彼らの試行錯誤の記録にもなっていると思った。
 とにかく1本1本に彼らの好奇心と探究心が詰まっていて、それに触れることができただけでワクワクした。プログラムは1000円もしたが、108本すべてのスチールが(小さいものだが)ナレーションの抜粋とともに掲載されていて、それを見ながら興奮の余韻に浸っている。
(新宿シネマカリテ、12月9日)
by krmtdir90 | 2017-12-10 20:37 | 本と映画 | Comments(0)
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