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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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映画「ロープ/戦場の生命線」

映画「ロープ/戦場の生命線」_e0320083_17333699.jpg
 最初に「1995年、バルカン半島のどこか」という字幕が出る。この映画は2015年のスペイン映画で、フェルナンド・レオン・デ・アラノア監督(脚本も)もスペインの監督だが、映画は母国を離れて1995年のバルカン半島での出来事を描こうとしている。そこが厳しい紛争地域で、停戦直後のことであるというのは映画の中で理解できるようになっているから、鑑賞に際してそれ以上の予備知識は必要ではなかった。映画はここで活動を続ける「国境なき水と衛生管理団」という国際NGO(非政府組織)の姿をとらえている。
 少しだけ調べておくと、この紛争というのはユーゴスラビアの解体と6カ国の独立に関わる内戦のことで、1995年に停戦となるのは、そのうちクロアチア紛争とボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の2つである。対立関係などは複雑でよく判らないが、バルカン半島の広い地域が、長期にわたって泥沼化した戦闘地域となっていたことは確かで、これがこの映画の背景となっている。
 映画の舞台となる地域(山岳地帯の村々)には、停戦直後から国連のPKO(平和維持活動)部隊が入っているが、武装解除は難航しており、小競り合いがあちこちで続いていて、各地に残っている地雷がNGOやPKO部隊の活動の大きな障害となっているようだ。
 「水と衛生」というのは、有名な「国境なき医師団」(ノーベル平和賞を受賞した)の重要な一分野であるようで、こういう困難な地域で活動しているにもかかわらず、その基本的立場を反映して彼らは銃などの武器をまったく携行していないらしい。

 村の井戸に死体が投げ込まれて利用できなくなってしまうというのが発端である。その現場で、ロープで死体を引き上げようとする「国境なき水と衛生管理団」の4人の活動が映画の中心的ストーリーとなる。上のチラシは主要登場人物を井戸をのぞき込む図柄に配置したものだが、上下の4人がその活動家たちである。
 右下がチームリーダーのベテラン、マンブルゥ(ベニチオ・デル・トロ、プエルトリコ系アメリカ人)、左下が同じくベテランのビー(ティム・ロビンス、アメリカ人)、右上の若い女性が新人のソフィー(メラニー・ティエリー、フランス人)、左上が旧ユーゴスラビア人で通訳を務めるダミール(フェジャ・ストゥカン)である。
 死体を結んだロープが古く、途中で切れて使えなくなってしまったために、彼らは二手に分かれて使用可能なロープを探しに行くことになる。ロープなんかすぐに見つかりそうなものだが、長い間紛争下にあった山岳地帯ではこれが容易なことではない。ようやく見つけた集落の店では主人に外国人には売れないと冷たく追い返されるし、警備所の建物で国旗掲揚に使われていたロープは停戦維持を示すものだから降ろせないと拒絶されてしまう。
 彼らを乗せた埃まみれの4WDは、急峻な斜面にへばりつくように続く無舗装の細い道路を行くしかなく、途中には道を塞ぐ牛の死体とともに地雷が仕掛けられていたりするのである。彼らの活動は、常に死と隣り合わせの困難と不条理の中にある。そうした中で交わされる彼らの会話の、一見投げ遣りにも見える様々なユーモアが、彼らの使命感の奥にある複雑な思いを浮かび上がらせる。

 上のチラシで左横から顔を出しているのは、NGO本部から現地視察に派遣されて来たカティヤという女性(オルガ・キュリレンコ、ウクライナ人)で、リーダー・マンブルゥの元恋人という設定になっている。PKO部隊に支援要請(要請は却下される)に行ったマンブルゥ(とソフィー)は駐屯地でカティヤに出会い、彼は一瞬面倒なことになったという顔をするのだが、彼女は以後グループと行動を共にすることになる。
 グループにはもう一人、途中で保護したニコラ(エルダー・レジドヴィック)という現地少年が同行しているのだが、映画は紛争が少年の家族をバラバラにしたことなども徐々に明らかにしていく(マンブルゥと少年の間に生まれた小さなつながりなども)。
 少年の家族に起こったことは過酷な運命と言うしかないものだが、一方で映画はマンブルゥとカティヤの「痴話喧嘩」を長々と映したりして、彼ら活動家たちのきわめて人間くさい一面も丁寧に浮かび上がらせている。最初チームに合流した時、マンブルゥにきつい冗談をかまされて気を悪くしていたソフィーが、今度は2人のたわいない言い争いを可笑しそうに見ているのが楽しい。
 彼らが取り組んでいる仕事は、こうした紛争地域においてはきわめて重要な英雄的行為に違いないのだが、映画はそれをことさら称賛したり美化したりして描くことはしない。むしろ、それが住民を始め紛争当事者にとって本当に必要なことなのかどうかといったことを、彼らは常に疑ったり無力感に苛まれたりしながら、試行錯誤に満ちた行為を続けるしかないということを描いている。

 途中で、井戸に死体を投げ込んだのは、給水車で水を売りに来て(もちろん密売である)資金稼ぎをする武装勢力らしいことが明らかになる。給水車に群がる村人たちを見ながら、彼らは自分たちの無力を噛みしめるしかない。ようやく手に入れた(その辛い経緯については触れない)ロープで死体を引き上げ始めても、突然現れたPKO部隊によって作業は一方的に中止させられてしまう(部隊がやって来た皮肉な経緯についても触れないでおく)。彼らの援助活動は基本的には民間の活動であって、国連軍の命令は彼らには絶対的なものなのである。
 グループは本部からの指令を受けて、また次の新たな活動地に向かって行く。難民収容所のトイレが溢れてしまったというので、雨が降ったら大変だぞなどと話していると、急に大粒の雨が4WDの窓を叩き始める。彼らの活動はこんな思い通りにならないことの繰り返しなのだ。
 最後に、ピート・シーガーの「花はどこへ行った」がかかったのには驚いた。PPMではなく、誰のカバーが使われたのだろうと思っていたら、マレーネ・ディートリッヒの歌唱だったようだ。思いがけない選曲だったが、実に効果的でグッときてしまった。
 映画は井戸をめぐるほぼ2日間の出来事を描いたのだが、結局、彼らの活動では何も進展せず何も解決しないまま終わることになってしまう。だが、件の死体は大雨で井戸の水が溢れたため、住民たちの手で簡単に引き上げられたことが最後に示される。何とも皮肉な結末だが、どんな大雨が降ったとしても、深い井戸が溢れることは現実にはとてもあり得ないと思われるので、これは映画を一種の不条理劇(喜劇)のように終わらせたかったということなのだろうか。面白い映画だったが、ここだけがちょっと納得いかないまま残ってしまったと思う。
(新宿武蔵野館、2月16日)
by krmtdir90 | 2018-02-17 17:33 | 本と映画 | Comments(0)
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