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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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映画「三里塚のイカロス」

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 成田空港を利用する時、心の奥深いところで、微かに引っ掛かってくる小さな棘のようなものを感じる。かつてこの地で激しい空港反対闘争が行われたことを、わたしぐらいの年齢の者なら誰でも、ほぼ同時代を生きた者として多かれ少なかれ記憶のどこかにとどめている。
 この地に新空港を作るという政府の一方的な決定に対し、地元農民たちが空港反対同盟を結成して抵抗した。そこに当時、新左翼(三派全学連)と呼ばれた学生たちや労働者が支援に入り、国家そのものと対峙する激しい闘争を繰り広げた。最初は計画そのものに反対し、建設を阻止して先祖からの農地を守るという闘いだったが、空港が滑走路一本ながら曲がりなりにも開港してしまうと、引き続き2本目の滑走路を阻止するというかたちで闘争は続いた。だが、闘争の長期化から土地を手放して移転する農民の数も増え、また支援する新左翼党派間の主導権争いなども泥沼化して、次第に反対闘争そのものが人々の共感を失っていった。
 この映画の代島治彦監督は、2014年に「三里塚に生きる」というドキュメンタリー映画でこの闘争を取り上げ、反対同盟の農民たちが苦渋の選択をしていく過程を記録したようだ。わたしはこの映画を観ていないが、本作「三里塚のイカロス」はこの続編として2017年9月に公開された映画だった。公開時に気にはなっていた映画だったが、この闘争に何の関わりもなかった身としては何となく気が引ける感じがあって鑑賞には至らず、今回アンコール上映があるというのでようやく出掛けてみる気になった。行って良かったと思った。

 この映画は、反対同盟の農民たちの闘いに、外側から関わりを持った人たちの証言を集めている。空港反対同盟が結成されたのは1966年、そこに当時の三派全学連が参加したのは1967年だったという。すでに50年の歳月が流れているのである。途中から関わった人にとっても、もうずいぶん長い時間が経過している。その時間の壁を越えて、彼らはその時のこと、その後のことなどを、それぞれの現在の思いとともに率直に語っている。
 闘争の初期の頃から反対同盟を指導した農民活動家・加瀬勉さん、彼は自分が関わった闘争の経過を逐一カセットテープに吹き込んで残そうとしている。
 全学連の一員として現地に入り、知り合った農家の長男と結婚した秋葉恵美子さん、彼女は農家に嫁いだ最初の支援女性(大学生)だった。同じく支援に入った大学生で、同じく農家の息子と結婚した前田深雪さん。秋葉家も前田家も現在は代替地に移転しているが、それを受け入れるには簡単ではない葛藤があったことをそれぞれ語っている(恵美子さんは一年ほど家を離れ、深雪さんは自殺未遂をしたらしい)。また、農家に嫁いだ元支援の女性が、2013年に移転を苦にして自殺したという事実も(短くだが)紹介されている。
 また、高校3年で京都から現地に入り、穴掘り作業中の落盤事故で半身不随になった吉田義朗さん、彼の車椅子を押してくる平田誠剛さんは、同じく京都の大学から現地に入り、1978年の開港4日前に起きた空港管制塔占拠事件に加わっていた。二人はいまも仲のいい悪友同士という感じで、当時のことをおもしろおかしく語るのだが、のちの党派間抗争(内ゲバ)では襲撃されるセクト(第四インター)にいたことも具体的に語られている。
 元国鉄の下請労働者として現地に入り、上記の管制塔占拠事件に同じく参加していた中川憲一さん。管制塔占拠事件については平田さんと中川さんの二人の証言を交互に組み合わせながら、大学生の死者が出たことも含めてかなり詳細に記録されている。また、中川さんとのインタビューは元団結小屋があったという道端で行われるのだが、そこにたまたま機動隊の装甲車が通りかかり、降りて来た若い機動隊員と撮影についてやり取りする興味深いシーンが収められている。いまも空港の周囲では機動隊の警備が行われているのだ。

 この映画にはナレーションはなく、当時の闘争と並走して作られた小川紳介監督の三里塚に関する映画フィルムが要所で挿入され、最小限の字幕によって当時の状況などが示されていく。人々の証言から様々な事実が浮かび上がってくるが、それらは時の経過とともに闘争のかたちが移り変わっていく様子も映し出していく。もちろん、もっともっといろいろなことがあったのだろうが、代島治彦監督は取材対象者を非常に的確に選んで語らせることで、かなり判りやすいかたちで様々な対立の構図を描き出すことに成功している。
 1978年に一期工事分の4000m滑走路が運用開始され、空港が開港したことで闘争は新たな局面に入っていく。翌1979年には戸村一作反対同盟委員長が死去、二期工事に向けての反対同盟と空港公団側との確執も複雑化していく。
 ここでインタビューの対象として出てくるのは、元空港公団職員で用地買収を担当した前田伸夫さんである。空港が出来てしまったことにより、反対同盟の中から移転容認の条件闘争に移る動きが出てくる様子が、彼の口から明らかにされる。彼は最後まで反対で突っ走る中核派の標的となった時のことを語り、空港公団に入ったことを後悔していると最後に言うのである。
 証言は続く。残った反対派農家の長男と1984年に結婚した元中核派の女性・加藤秀子さん、1998年に苦衷の中で夫は土地売却を決意、その時のことを移転先の自宅で淡々と語る。そして、2002年に二期工事分の平行滑走路が運用開始された。
 最初に登場した農民活動家の加瀬勉さんは映画の終わり近くで、結局結婚もしないで反対闘争にすべてを注ぎ込み、母親を介護するしかなくなってしまう辛い経緯を語る。元空港公団職員の前田伸夫さんは、移転交渉が不調に終わり、いまも移転せずに離着陸する飛行機の直下で暮らす家に代島監督を連れて行く。遠くからその家を見るだけだが、取り残されてしまった農民というのもあることが示されている。
 最後に証言するのは元中核派政治局員で、1981年から2006年まで現地責任者を務めた岸宏一さんである。吉田義朗さんや平田誠剛さんらが属した第四インターを襲撃して8人に大怪我を負わせ、空港公団職員の前田伸夫さんを標的とするテロなどを指揮した責任者である。彼は三里塚闘争は失敗だったと述べ、「それは岸さんの失敗ってことですね」という代島監督の問いかけに、「完全にそうですね、完全にそういうことだと思います」と答えるのである。

 だが、この映画は何らかの立場に立って誰かを批判したり糾弾したりする映画ではない。安易な決めつけで岸さんや前田さんの責任を追及したりはしていない。浮かび上がるのは、地元農民の気持ちを無視して強行された新空港建設という国家事業の下で、多くの人たちがみずからの人生を狂わされてしまったという事実である。狂わされてしまったというのは語弊があるが、こうした多くの人たちの人生と引き換えに成田空港が作られたというのは確かなことなのである。
 代島監督は、現在という時点からこの長い経緯を振り返るために、実にバランスの取れた素晴らしい人選をしていると思った。安易に公平という言葉は使えないが、それぞれの場所で生きていた人々の思いに丁寧に寄り添おうとしている姿勢には共感できる。いいとか悪いとか、正しかったとか間違っていたとか、簡単に断じてしまうことなど誰にもできはしないのである。
 代島監督はプログラムの中で、2013年に自殺した先述の女性の通夜の席で、「『ひとりの責任感の強い女性の不条理な人生』に強い憤りを覚えた。この行き場のない憤りが、ぼくを新たな映画づくりへと導いたのだと思う」と語っている。彼女は元反対同盟青年行動隊員の夫とともに反対運動を続けていたが、2006年に移転を受け入れるしかなくなったことからウツ病を発症していたのだという。代島監督はさらに述べる。「誤解を恐れずに言うが、『三里塚のイカロス』は“あの時代”にけりをつけさせるための映画、ちゃんと死んでもらうための映画である。悪霊となって社会を彷徨うのはもうやめてくださいよという……」。
 神話のイカロスは、蝋で固めた翼によって空を自由に飛翔する能力を手に入れるが、力を過信して太陽に接近しすぎたため、蝋が溶けて翼を失い、地上に墜落して死んでしまった人物である。「三里塚のイカロス」というタイトルは、三里塚にそんなイカロス(のような人たち)がいたのではないかというアイロニーである。アイロニーには違いないが、このイカロスたちは決して非難されてはいないし、否定されているわけでもない。どこかに誤りはあったのかもしれないが、彼らは確かにその時代を生き、いまもそれぞれの場所で生きているのである。「“時代”にけりをつけさせる」という代島監督の言葉は実に重い。
 すぐ上空を巨大な飛行機が爆音を轟かせて飛ぶ下の畑で、黙々と耕作し収穫する秋葉恵美子さんの姿が印象的である。吉田義朗さんと平田誠剛さんが語った、彼らが作った地下要塞が4000m滑走路のど真ん中に埋まっているいう話も記憶に残る。多くのインタビューが飛行コース直下の屋外や屋内で行われていて、爆音で話が中断するシーンが何度かあった。その沈黙の間(ま)に、言葉にならない彼らの複雑な思いが溢れてくるような気がした。
(新宿K's cinema、4月23日)
by krmtdir90 | 2018-04-24 21:54 | 本と映画 | Comments(0)
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