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高校演劇の春季発表会が各地区で行われているが、現場を退いて十年にもなると、知っている顧問も(退職したりして)次第にいなくなり、観に行ってみようという気持ちもだんだん弱まってきている。とはいえ、やはりこの季節の楽しみであることにはまだ変わりなく、気が向いた舞台だけちょっとつまみ食いする感じで出掛けてきた。一応の礼儀として、以下に簡単な感想を書いておく。
4月28日(土)は、まず朝霞コミュニティセンターに行き、西部A地区の舞台を2校観せていただいた。 細田学園高校「シンギュラリティ」 顧問のE先生の創作だというので少し期待していたのだが、率直に言ってまだ台本として組み立てられていないと思った。現実離れしたストーリーを設定することは構わないが、そこで動かされる登場人物にはそれなりの説得力がないと観ていて辛い。どんな飛躍したストーリーであってもいいが、それを成立させるには誰もが納得できるリアリティが作れなければならないのではないか。今回は正直、展開の安易さが気になって仕方がなかった。また、生徒なら誰でも知っている「山月記」と重ね合わせる意図があったようだが、どこがどう重なるのかわたしには理解できなかった。創作への意欲は良し。だが、書いたものを一度距離を取って見直してみることができないと、なかなかいいものは書けないのではないかと思う。 舞台の方だが、キャストの声が総じて小さく元気がなかった。普段の生活ではもっと大きな声が出ているはずなのだから、セリフをきちんと口にするためにはどんなことが必要なのか考えてみてほしい。発声や言葉を発する時の意識の仕方など、やはりセリフのしっかり書かれた既成台本でもう少し基礎練習をした方がいいと思った。あと、装置の置き方や場面転換などでも、もっとキャストを動き易くすることを第一に考え直した方がいいのではないかと感じた。 新座高校「トシドンの放課後」 アカネを演じた女子がとても雰囲気が出ていて良かった。これまでいろんな学校の「トシドン」を観てきたが、ピカ一のアカネだったのではなかろうか。ツヨシとナガヤマ先生もよく頑張っていた。ツヨシを女子がやっているのは舞台としては弱点だが、これは仕方がないこと。この二人は、気持ちのぎこちない部分がもう少し意図的に出せるとさらに良くなるだろう。 残念だったのは、後半がたぶん練習不足だったのだろうと感じられてしまったこと(新座の舞台にはこれがよくある)。前半はアカネとツヨシの距離感など非常にいい感じで作れていたが、途中から二人の気持ちが通じ始めてクライマックスに至るあたりは、やや丁寧さを欠いてスーッと流れてしまったように感じられた。終盤にツヨシが心情を吐露するところと、それに対してアカネがトシドンになって励ますところは、いまのところはまだ力んでいるだけに見えてしまっていた。この二人ならもっと気持ちを込めてやれるはずだと思った。あと、最後にアカネの髪を黒く変えていたが、あれだけの金髪を黒に染め直すのは簡単ではないだろうし、逆に元の髪色のままでアカネの素直さが表出された方が共感できるように感じたのだがどうだろうか。 西部Aでこの日に観たい舞台はこの2つだったので、午後は東松山に移動して、松山市民活動センターで比企地区の2校の舞台を観せていただいた。 東京農大第三高校「バンク・バン・レッスン」 まだ練習不足というのか、この台本でどういう演技が要求されているのかというところで、キャストの中に意思統一ができていないように見えてしまった。まったく唖然とさせられるばかりの設定と展開なのだから、もっと有無を言わせず突っ走ってしまうパワーが必要だったのではないか。たぶん演技としては、もっとあざとい、クサイ演技を操らなければならなかったように思う。キャストの力に凹凸があるのは仕方がないことだが、作るべき方向性をしっかり確認した上で、全体が一つになることでその弱点をカバーしなければならないのだと思う。 装置だが、普通は省略することが多い自動ドアを正面にリアルに作ってしまったため(実にスムーズに開閉していて感心したのだが)、手前の床の可動反応範囲がどこまでなのかといった、つまらないことが気になってしまった。そうなると、そもそも銀行強盗は、最初にドアが作動しないよう鍵をかけさせるのではないかとか、横にあるらしい素通しの窓にはシェードを下ろさせるのではないかといった、余計なことをあれこれ考えてしまう結果になった。こうした台本で、どこまでこういうリアルさを表現するかは難しいところだと思った。 松山女子高校「とおのもののけやしき」 装置大好きなわたしとしては、緞帳が上がった瞬間にウオーッという感じになった。仕込みにずいぶん手間取っているなと思っていたが、これでは無理もない。よく飾り込んだし、様々な昔の道具もよく集めたものだと感心した。これだけのものを舞台に上げてくれると、敢えて気になった細かい点も書いておく気になる。①上手の袖との間に隠しパネルがなかったので、奥(仕掛けを動かすワイヤーなど)が見えてしまったのは気になった。②手前に柱を一本立てていたが、全体を立体的に見せて良かったが、作りが雑でここだけリアルさが欠けていたように感じた。 装置作りに夢中になり過ぎたからだろうか、残念ながらキャストの方はまだ作り切れていないところがあると感じた。お雛様・鬼・納戸婆はそれぞれ非常に頑張っていたが、その熱演が単独のもので、兄妹の方とうまく絡んでいないような印象を持った。十の謎かけという構図が常にあるのだから、それをしっかり意識したやり取りを作らなければならないだろう。兄妹が考えるところとか答えに驚くところとかで、やや気持ちが上滑りするおざなりな演技が目についたように思う。あと、離婚協議に行った母親の帰りを不安になりながら待つという設定も、もっと丁寧に印象付けてほしいと思った。最後の電話機は、目立たないところに最初から置いてあった方がよかったような気がした(箱から取り出すというのは何か変だし、その段ボール箱が妙に新しいのも気になった)。 4月29日(日)はもう行かないつもりだったのだが、何となく気が変わった。西部A地区で、この日も2校の舞台を観せていただいた。 新座総合技術高校「演劇部、始めました」 廃部の危機に瀕した演劇部のがんばりを描いた生徒創作台本(だよね)。変なおふざけに流されることなく、生徒らしい素直な感覚で事態の推移を描いていて好感が持てた。4人の部員たちのキャラクターの違いも意識されていて、必ずしもそれがうまく表現されているとは言い難かったが、少なくともそういうことを考えようとしているところはいいと思った。部長の子と寝てばかりいる子(プログラムを見ても役名と結びつかない)が喧嘩するところは、やや唐突の感は否めなかったが、最後には乗り越えられることが判っていても、ストーリーをうまく変化させていて良かったのではないか。先輩が残したというメッセージの使い方もいいと思った。 これも予想通りの終わり方なのだけれど、最後に待望の新入部員がやって来るところでは、4人の反応をもう少し一人一人丁寧に作らなければもったいないと思った。 朝霞西高校「朝日のような夕日をつれて/21世紀版」 女子部員が多い高校演劇では、男子5人を揃えてこの台本がやれたことが、まず何よりも素晴らしいことだと思った。観るに当たって変な気苦労をしないで済んだのはありがたい。 5人はよく動けていたし、それぞれのキャラクターも際立たせてよくやっていたと思うが、全体としてはなぜか単調な感じがしてしまったのはなぜだったのだろう。恐らく、セリフの言い方で語尾が沈んでしまう(押さえてしまう)ことが多く、相手や周囲に対して突き抜けていく(正しい距離感できちんとセリフを飛ばす)感じが不足していたのではないかと感じた。最初と最後の群読にそれが端的に表れていたと思うのだが、結局覚えたセリフを生真面目に消化しているだけで、セリフが場の空気を次々と変えていくようには言えていなかったということではないか。セリフが重なっていくことで自然に生まれてこなければおかしいワクワク感(というようなもの)が、この舞台には作れていなかったような気がした。全体的なテンポも悪く、要所での畳みかけるような勢いにも欠けていたように感じた。5人も男子のキャストが揃いながら、その魅力をもう一つ発揮し切れていないのが惜しいなあという思いが残った。 例によって、少し厳しく書き過ぎてしまった学校もあったかもしれない。率直に書くのは少しでもいい舞台になればという思いからなので了解していただきたい。みなさん、お疲れさまでした。 あと、新座柳瀬高校が部内の事情から上演辞退になってしまったことは残念だった。何とか乗り越えて、次の機会にはまた面白い舞台を作って来てくれることを期待したいと思う。
by krmtdir90
| 2018-04-30 16:35
| 高校演劇、その他の演劇
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Comments(2)
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とうきょう りゅう
at 2018-05-03 15:54
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ご来場いただきまして、ありがとうございました。
また、劇評ありがとうございました。次回上演まで、よりいい芝居に出来るように稽古いたします。自動ドアの件は、私も気になってました。さて、どう処理しましょうか・・・。考えて見ます。
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krmtdir90 at 2018-05-03 20:33
自動ドアのこと、せっかく作ったのだし、うまく作動?しているのだから、いまのままで気にすることはないと思います。要するに、役者ががんばって芝居を転がしてくれたら、わたしが書いたようなつまらないことは気にならなくなるでしょう。がんばってください。
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