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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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映画「ザ・ビッグハウス」

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 想田和弘監督の観察映画第8弾は「港町」とは正反対の大スペクタクルだった。ずっとアメリカ在住ながら、これまではいつも日本に来て、日本の様々なシーンを観察してきた想田監督が、これは初めてアメリカを対象として撮った映画だったようだ。
 「ザ・ビッグハウス」とは、ミシガン州アナーバー市にある、名門ミシガン大学のアメリカンフットボール・チーム「ウルヴァリンズ」の本拠地スタジアムのことである。今回は、10万人以上を収容するというこのスタジアムのすべてが観察対象になっている。
 ここでで展開される巨大なスポーツイベントを捉えるために、想田監督は従来の小規模な撮影クルーではなく、観察映画としては初めての「ビッグな」クルーを編成して臨んだようだ。想田監督のほか、監督・製作にマーク・ノーネス、テリー・サリスという2名が名を連ね、彼らを含めて17人が同時進行的にカメラを回したらしい。このメンバーは、想田監督自身が当時(1年間)教授として招聘されていたミシガン大学映像芸術文化学科の学生たちで、上記のマーク・ノーネスは同学科の教授として、想田監督にこの映画の企画を持ちかけた当人ということだったらしい。
 当然、これまで掲げてきた「観察映画十戒」は部分的に守れなくなるが、撮影された素材についてのディスカッションを経て、編集を想田監督一人が行うことで、新たな観察映画の可能性が開かれたということだったようだ。

 アメリカでアメリカンフットボールが絶大な人気を博していることは知っていても、日本ふうに言えば、たかが大学同士のリーグ戦が、これほど圧倒的な規模で行われていることは驚きと言うしかなかった。アナーバー市の人口が約11万7千人というから、試合があるたびにこのスタジアムには、市の人口に優に匹敵する観客が詰めかけるということなのである。
 これだけのビッグイベントを実施するためには、それを支えるバックヤードにも膨大な人数が配置されているわけで、映画はその様々な裏表の姿を克明に観察し記録していくのである。高校演劇でバックステージに強い興味を持ってしまったわたしとしては、その一つ一つはとにかく面白いことばかりで、まったく目を離している暇がなかったと言っていい。
 この映画は試合の行方に興味を示すことはほとんどないのだが、それ以外のすべてのことには実に貪欲でしつこい視線を向け続けていく。その結果、ここでフットボールの試合が行われているのは自明のこととして、その時(その前後も含めて)このスタジアム全体がどんなふうに生きているのか(動いているのか)という、実に興味深い有りさまを鮮やかに描き出すことに成功している。「これがアメリカなのか!」というのはあまりに大雑把な感想になるが、アメリカはこういうふうに生きている(動いている)のかというところを、この映画はきわめて具体的に(かつ象徴的に)眼前に描き出してくれていたと思った。

 このビッグイベントの背後には、ミシガン大学というアメリカ有数の名門校が存在している。そこがある意味アメリカの縮図のようになっていることも、この映画は鮮明に描き出している。「ザ・ビッグハウス」はその象徴になっているのである。プログラムにその巨大さを示す数字が紹介されていたので、少し抜き出しておきたい。学生数は4万4718人、教員数は7219人、職員数は1万4856人、卒業生数になると57万5000人以上である。大学の一般財源は年間74億ドル、研究費が年間13億9000万ドル(因みに、74億ドルは約8150億円)である。。
 また、ビッグハウスのチケット収入は年間4017万ドル、TV放映権料は5106万ドルとなっている。チケット代は対戦相手や席によって異なるが、安い時で55~75ドル、高い時で99~130ドルといったところらしい。映画にはスタジアムの観客がたびたび映し出されていたが、ほとんどが白人で、バックヤードには黒人も働いていたが、あとはスタジアムの外でダフ屋をしていたりチョコレートを売っていたりするだけである。恐ろしく高額というVIPルームも映されていたが、観戦しているのは当然白人ばかりだった。ここはアメリカ国民の経済格差の象徴ともなっている場所なのである。
 ミシガン州は歴史的に自動車産業が基盤となったところだというが、アナーバー市は黒人労働者の増加を避けてデトロイトを離れた白人層が多く移り住んだ近郊の町なのだという。ウィキペディアで調べてみると、現在のデトロイトは人口の8割を黒人が占めるが、アナーバーは8割近くを白人が占めているらしい。

 観察映画には字幕もナレーションもないから、これらのことを映画は何も語らない。この映画からこういうことを引き出すかどうかは観客に委ねられているのだ。だが、想田監督の編集作業の過程に、映像の何を見ているかという監督の観点はおのずと現れているのであり、想田監督の視線は「ザ・ビッグハウス」のスケールを俯瞰的に見ているだけでなく、そこに現代アメリカの諸問題を見ようとしていることが確かに感じ取れるのである。観察映画は予定調和の方向づけは排するが、うわべだけの客観とも無縁のものであると言うべきだろう。
 この映画は2016年にカメラを回したようだが、時まさにトランプとクリントンの大統領選の真っ最中で、トランプ候補の宣伝カーが画面の中に写り込んでいたりした。写り込んだ映像を残したのは編集した想田監督なのであって、調べてみたら、従来は民主党が勝っていたミシガンを今回共和党が押さえたのが、トランプ当選に大きく作用していたということが判った。トランプ的なものとの結びつきが、このスタジアムにもあるのではないかという視点を、想田監督はさりげなく提示しているということなのだろう。
(渋谷イメージフォーラム、6月14日)
by krmtdir90 | 2018-06-15 16:58 | 本と映画 | Comments(0)
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