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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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映画「グッバイ・ゴダール!」

映画「グッバイ・ゴダール!」_e0320083_14201724.jpg
 ジャン=リュック・ゴダールの「中国女」(1967年)は見ているはずだが、映画のこともアンヌ・ヴィアゼムスキーのこともまったくと言っていいほど覚えていない。「気狂いピエロ」(1965年)には衝撃を受けたが、その後、商業映画と訣別して政治的・闘争的な映画に突き進んでいった彼には、とてもついて行けないような気がしていたのだと思う。
 この映画は、アンヌ・ヴィアゼムスキーが2015年に出版した自伝的小説「それからの彼女」を映画化したものなのだという。そこには、アンヌが主演した「中国女」の撮影時から始まり、いわゆるパリ五月革命とカンヌ国際映画祭粉砕事件(いずれも1968年)、そしてジガ・ヴェルトフ集団の映画製作に至るまでの数年間のゴダールが描かれている。それは、ゴダールの軌跡をたどろうと試みる時、最も興味深く、しかし最も判りにくい変節を遂げた時期と重なっている。

 だが、間違えてはいけない。この映画はその時期の事象を一つ一つ追いかけているが、だからといってゴダールの伝記映画を作ろうとしたものではないし、映画監督としての彼の変節を解釈したり評価したりしようとしたものでもない。恐らく、アンヌ・ヴィアゼムスキーの書いた原作もそうしたものではなかったと思われる。ここにはいかにもそうであったかのようなゴダールがいるが、それらはすべてアンヌの視線を通したゴダールであって、小説として書かれている以上は、そこに創作や誇張が加わっていることが前提となっているのである。
 映画は当然のことながら、ゴダールの思考の軌跡には踏み込もうとしていない。それは確かに重要な背景ではあるけれど、ここに描かれているのはあくまで、2人目の妻(ミューズ)となったアンヌとの日々に一喜一憂?する一人の男性としてのゴダールの姿である。ゴダールが彼女と出会った時、アンヌは19歳、ゴダールは36歳だったというが(アンヌはすでに、17歳でロベール・ブレッソン監督の「バルタザールどこへ行く」に出演して映画デビューしていた)、この映画が描くのは、すでに時代の寵児となっていた天才映画監督と出会ってしまった、はるか年下の新人女優アンヌの目から見た、2人の「恋」の顛末なのである。

 この監督(ミシェル・アザナヴィシウス)は、この基本的な視点をずっと堅持してくれているから、ゴダールの弱さやダメさ加減を容赦なく(コミカルに)描きながらも、その思想面には一定の距離を置くことで、彼へのリスペクトは一貫して保持していることが見て取れるのである。その結果、出会いの当初は全面的な憧憬であったアンヌの思いが、どんどん変化していく彼の行動の過激さに次第に違和感を強めていき、ついにはついて行くことができなくなってしまうまでの心の変遷が、(ゴダールを批判したり貶めたりすることなく)丁寧にたどられるものになっているのである。
 女性の方から見ると、ゴダールのような男はまったくもって困ったものなのかもしれないが、それを笑いで処理するところでも、この映画は少しも嫌味なものにならず、それもまた彼の一途さや不器用さの一つのかたちだったのかもしれないと感じさせるような描き方をしていると思う。ゴダールを演じたルイ・ガレルをゴダール本人に非常に似た風貌に作って、いかにもこんなふうだったのだろうなと思わせる一方で、アンヌを演じたステイシー・マーティンは本人とはまったく異なるイメージで登場させたところに、この監督の鮮やかな作戦の勝利があったような気がした。

 そのためと言っていいと思うが、このアンヌはアンヌ・ヴィアゼムスキーであると同時に、1人目の妻(ミューズ)だったアンナ・カリーナをも連想させるような存在になっていたと思う。アザナヴィシウス監督は、この映画を普遍性を持つ「恋愛映画」と規定することで、いつも女性と行き違うしかなかった「勝手にしやがれ」(1960年)「軽蔑」(63年)「気狂いピエロ」(65年)といったゴダールの作品群を、つい(自然に)参照してしまうような作り方をしている気がした。ここにいるゴダールは、マリアンヌのアンナ・カリーナを遂に理解できなかったフェルディナンのジャン=ポール・ベルモンドと瓜二つだと言ったら言い過ぎだろうか。
 この映画には時々、ゴダールとアンヌの短い独白が挿入されているのだが、非常に早い段階でゴダールは、「彼女は僕を捨てる、いつのことか判らないが」と言っているのである。ゴダールとゴダールの映画の男たちは、この理由も判らない不安(予感)からいつも逃れられないでいたような気がする。対するアンヌは終盤近くで、「もう愛していない。目が覚めたわ。あなたが皆を拒んだのよ」と呟くのである。ゴダールはどんなに一生懸命になっても、アンナ・カリーナやアンヌ・ヴィアゼムスキーにそう言わせてしまうしかできなかったということなのだろう。

 アンヌ・ヴィアゼムスキーは2017年に70歳で亡くなったらしい。完成したこの映画を見て、彼女はとても気に入っていたとどこかに書いてあった。一方、ゴダールはいまも存命で(87歳だという)、この映画化にも完成した映画にも一切コメントを出していないということのようだ。まあ、実際にコメントの出しようがないのかもしれないが、通りすがりの野次馬としては、彼の辛辣な(たぶんそうなる)感想を聞いてみたいような気もした。
 まあ、それはそれとして、思いがけずきちんと作られた楽しい映画だった。ゴダールの人間味がこんなにも描かれているとは思わなかった。彼の政治的な考え方などは別にして、彼とアンヌの心情的なものがしっかり描写されていたのが良かったのだと思う。私の中ではけっこう評価の高い佳作だったと思う。
(シネスイッチ銀座、8月6日)

 新宿でもやっているはずだと思っていたら、すでに21時過ぎから一回限りの上映に切り替わってしまっていた。そのため、何十年ぶりかでJR有楽町駅を降りて、はるか昔に何回か行ったことがある(はずの)銀座のこの映画館での鑑賞になった(こちらは12時15分からの回があった)。映画館の記憶はまったく甦ってこなかったが、こういうのもたまには悪くないなと思った。内装などは新しくなっていたのだろうが、見やすい、いい映画館だと思った。
by krmtdir90 | 2018-08-08 14:20 | 本と映画 | Comments(0)
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