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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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映画「カメラを止めるな!」

映画「カメラを止めるな!」_e0320083_161371.jpg
 わたしは映画館に行くとけっこうチラシを貰ってくるので、このチラシもあるだろうと探してみたが見つからなかった。絵柄には確か見覚えがあるから、たぶん見かけるたびに(この感じはまったく好みではないし)見に行くことはないと判断していたのかもしれない。
 ところが、どうも世の中はわからないもので、これがいま驚異的な大ヒットを記録しているのだという。最初はマイナーな2館ほどで公開されたが、面白いという評判が口コミ(SNS)で一気に広がり、連日の満席を記録したのち、先週あたりから上映館を大幅に増やして対応することになったらしい。「この世界の片隅に」とまったく同じパターンをたどっている映画なのである。
 そうはいっても、映画としては「この世界…」(の真面目さ)とはまったく異なり、いかにもB級くさい「ゾンビもの」のコメディらしいし、なかなか見に行こうという気持ちにはなれないでいた。だが、夏場はわたしの見たいような映画がほとんどやっていない時期で、まあ、他に見るものもないし、ちょっとヒマ潰しという気分で近くのシネコンに出掛けて行ったのである。シネコンとしてはかなり大きなハコが用意されていて、6割ぐらいの入りだったろうか、それでも一日7回も上映するようだから、十分立派な成績と言っていいのだろう。思いがけない展開に増刷が追いつかないのか、プログラムを買おうとしたら品切れになってしまっていた。

 SNSで拡散する時、この映画は予備知識なしで見た方がゼッタイにいいということで、ネタバレさせずに周囲に薦めるのが暗黙の約束になっていたらしいが、わたしとしては感想を書きたいのだから、以下は完全なネタバレになっていることを最初に断っておきたい。
 結論を最初に言うと、これはものすごい掘り出し物だった。「騙されたと思って見に行ってごらんよ、とにかく面白いから」と、なぜかしら人に薦めたくなる映画なのだと思う。アイディアの勝利という面はあるが、それをこんなふうに実現するのは簡単なことではなかっただろう。

 いきなり始まるのは、これ以上はないというくらいチープな「ゾンビもの」である。とある山奥の廃墟で、自主映画の撮影隊がゾンビ映画を撮影している。妙なこだわりを見せる監督にみんなが困り果てていると、そこになぜか本物のゾンビが襲いかかり大混乱になるのである。本物だ~!と監督は大喜びで撮影を続けるが、撮影隊の面々は次々とゾンビ化していき、腕は飛び首も飛び血糊ベタベタの修羅場が展開していくことになる。…というような内容なのだが、何と言うべきか、画面は汚いし、勢いだけはいいんだが、なんかハチャメチャでよく判らん流れの中で、これはなんなんだよ~という気分になっていくしかないのである。
 ただ、これが37分にわたる「ワンシーンワンカット」で撮られているというのはどこかで聞いていたから、いつのまにか、これは容易に撮れるものではないぞというのが判ってきて、その興味に引きずられて、とにかく行くところまで行くしかないなと覚悟を決めることになった。たぶんカメラを止められないことからくる不自然さや、なぜそうなるのかよく判らない箇所がいろいろ目につくのだが、とにかく37分を走り切ってエンドロールが出たところで、とにかくよくやったことだけは確かだなと思うしかなかった。

 だが、実はここからがこの映画の(もう一つの)始まりだった。これはもう、完全にやられたという感じだった。
 まず、37分のワンシーンワンカットがなぜ行われたのかという事情が明らかにされる。これはそもそも、テレビの単発ホラー番組として企画されたもので、使えるカメラは一台だけ、全編ワンカットの生放送というのがプロデューサー側が出した条件だったのである。要するに企画そのものが最初から安易な思いつきなのであって、しかも予算がないから、俳優も裏方もよく判らない面々しか集められなかったということらしいのである。
 こんな安直で危ないだけの企画に普通は誰も乗らないよなどと言いながら、引き受けてしまった以上はやるしかないというところに監督が追い込まれたのが始まりだったのである。この準備段階のあれこれを手短に描写していくところで、監督の家族のサエない状況なども点描されるのだが、なぜそんなシーンが必要なのかよく判らないままに、映画は最初に見せられた37分のワンシーンワンカットを、もう一度、今度は製作側の視点から追体験するという構成になっているのだった。それは、この37分の撮影の裏側で何が起こっていたのかを、逐一明らかにしていくということだった。この過程で、監督の家族(妻と娘)も重要な役割を果たしていくことになる。

 つまり、この後は最初の37分間や製作事情を描いた部分で、様々に引っかかってきた不自然さや意図不明の箇所について、実はこうだったという種明かしが行われることになるのである。カメラを止められないという絶対条件の中で、裏方を始めとした撮影隊全員が、臨機応変つじつま合わせのために必死に駆け回る様子をすべて映し出していくのである。要するに、これまで不自然とか意図不明と感じられた箇所は、映画としては(思わぬアクシデントが起こったというかたちで)すべて意図的に仕込まれていた伏線だったのであり、それを一つ残らず回収してみせるというのが、この映画の核心になっていたのである。見ているうちに、なるほどそういうことだったのかと一々納得させられて、その爽快感?はなかなかのものだった。客席からもけっこう笑い声が聞こえて、大いに楽しませてもらうことになった。
 この中で、このワンシーンワンカットを作り上げようとする撮影隊の「必死の思い」といったものが、鮮やかに浮かび上がってくるように感じられたのが素晴らしかった。笑っちゃうくらいチープな撮影現場であっても、そこに溢れている一人一人の「熱」はこの上ないものだったのである。彼らの真剣な右往左往を笑っているうちに、最後には胸が熱くなるようなところまで持って行かれてしまうのは驚きだった。いやまったく、この手の映画に感動させられてしまうとは思ってもみなかった。

 考えてみると、この映画は実に緻密に組み上げられた映画なのであって、監督・脚本・編集の上田慎一郎という青年監督(34歳だという)の力量は並のものではないことが感じられた。特に見事だと思ったのは、この監督はその緻密な計算を前面に出すのではなく(計算している余裕なんてありませんよという顔をして)、むしろいかにも成り行き任せの、たまたまこんなことになっちゃって~といった、終始いい加減な雰囲気をあたりに漂わせながら、それを何ともさりげなく(軽やかに)やり切ってしまったことだったと思う。予算がなかったのは事実だったのだから、上田監督はそのチープさを逆手にとって、恐らく計算ずくでこの「ユルい雰囲気」を構成して見せたのではないかと思う。
 みんなで力を合わせて困難を乗り越え、一つのものを作り上げていく素晴らしさ、などと言ってしまったら身も蓋もないが、確かにこの映画はそういうことを描いていたのであって、そういう映画をとことん楽しいだけの第一級コメディとして作り上げてしまったことに驚くのである。振り返ってみれば、どの登場人物のキャラクターもしっかり組み上げられていたことが判るし、映画の監督一家(監督と妻と娘)にとっては、あろうことか、彼らの成長脱皮の物語という側面まで鮮やかに描き込まれているのである。彼らの変貌にあっけにとられながら、ヨシッ、行け~!というような、なんだか全面的な共感気分にさせられてしまうなど予想もできないことだった。

 まったく、映画というのは判らないものだ。終わってみれば、完全に監督の術中にはまってしまった96分だった。見に行って良かったと思った。
(TOHOシネマズ南大沢、8月13日)
by krmtdir90 | 2018-08-15 16:13 | 本と映画 | Comments(2)
Commented by とうきょう りゅう at 2018-08-19 15:17 x
 このっコラムを読んで、映画見に行っちゃいました!

 見に行ってよかったです。めったに買わないパンフレットまで買っちゃいました。

 やられたって感じでした。本当ののエンドロールを見たとき拍手したくなりました。
Commented by krmtdir90 at 2018-08-19 19:11
りゅうさんも見ましたか。良かったでしょ。
確かに、やられたって感じですよね。
久しぶりに、手放しで面白かったと言える快作だったと思います。

パンフレット売っていましたか。やっと増刷できたのかな。
natsu
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