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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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「ふたりぐらし」(桜木紫乃)

「ふたりぐらし」(桜木紫乃)_e0320083_18155963.jpg
 桜木紫乃はどこに行こうとしているのか。新境地を模索しているのだろうか。
 しかし、以前からの読者としては、こういう話なら別に桜木紫乃でなくてもいいわけで、彼女には「結婚って、けっこういい」などという話を期待しているわけではないのだ。前作「砂上」も新境地という感じがあったが、あの時は小説家・桜木紫乃がみずからの創作の秘密?を明かしてくれたという点で、それなりに楽しむことはできたのだった。

 今回は一組の夫婦の上に流れる時間の経過を、10の短編を連作のように組み合わせることで描き出そうとしている。10編は夫と妻それぞれに即した話を交互に並べていて(5編ずつ)、夫の「こおろぎ」から始まって、最後は妻の「幸福論」で終わるという構成になっている。帯の惹句にあるように、「夫婦はいつから、夫婦になるのだろう」というのが全体を貫く問いになっていて、裏表紙側の帯の「ささやかな喜びも、小さな嘘も、嫉妬も、沈黙も、疑心も、愛も、死も。ふたりにはすべて、必要なことだった」というところを通って、最後に「幸福論」に辿りつくというかたちである。
 最後のタイトルが「論」であるのは、結局こういうのが「幸福」なのかもしれないという、あくまで断定しない終わり方になっているからと思われるが、そもそもそんなことは誰にも断定することはできないのだから、それを「論」と名づけてみせる桜木紫乃の態度には、あまり共感できるところはないような気がした。
 桜木紫乃が幸福について考えることは別にかまわないと思うが、それが夫婦の幸福についてであったことが、少々違和感を感じさせるということだったのかもしれない。男と女、両者を無理に均等にしようとしたように見えてしまって、別にすべてを妻の側から書いてもいっこうにかまわなかったのではないかという気がしたのである。たぶん、その方が彼女も書きやすかっただろうし、ずっと読みやすいものになったのではないかと思った。

 桜木紫乃はこれまでも、圧倒的に女性の生き方を描いてきた作家なのであって、敢えて言ってしまえば、男性を描くことはあまり得意ではなかった(あまりそちらの立場を考慮してこなかった)という印象があったと思う。今回、男女をほぼ等分にする比率で書こうとしたのは、もしかするとそのあたりを意識してのことだったのかもしれない。
 だが、率直に言ってしまえば、本作でも夫・信好の造形はもう一つはっきりしないところがあって、読んでいてあまり面白いとは思えなかったのである。と言うか、実は妻・紗弓の方もどことなくぼやけた印象があって、桜木紫乃は結局、さして特徴のないこうしたありふれた人物を描くのはあまり巧みではなく、なかなか面白いものにならないということだったかもしれないと思った。
 もちろん、各編ごとに小さなエピソードの積み重ねになっている今回の話でも、描写の仕方などでさすがだなあと感心するところはたくさんあった。だが、それがこの夫婦への興味としてまとまっていくような気はしなかったのである。エピソードの設定が、無理に作られているように感じられるところもあって、話の「作られ感」といったものが、いつになく生のまま出ているような気もしたのである。夫婦になってすでに40年以上経過しているわたしとしては、こういう話には「今さら感」というようなものも働いていたのかもしれない。

 やはり、桜木紫乃にはもっと波瀾万丈で、周囲の現実に翻弄されるような女性たちを描いてほしいという気がするのである。たぶん、今回の話では「桜木紫乃ワールド(固定観念かもしれないが)」というようなものに、有無を言わせず引きずり込まれることがなかったのが不満だったのだろうと思う。難しいものである。
by krmtdir90 | 2018-08-17 18:16 | | Comments(0)
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