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韓国で1987年の「闘い」と言えば、当時強圧的な軍事独裁政権を握っていたチョン・ドゥファン(全斗煥)大統領を退陣に追い込んだ広範な民主化闘争を指している。この映画は、現代韓国の大きな転換点となったこの出来事を、事実とフィクションとを巧みに組み合わせながら、文字通り真正面から描こうとしたものである。 30年前のことだから、この出来事を体験した人もまだたくさん生きている一方で、このことを知らない世代も確実に増えてきていることから、これだけは何としても伝えていかなければならないという製作者たちの熱い思いが溢れている映画だった。上映時間は129分、終始この有無を言わせぬ熱量に圧倒されるばかりだった。 わたしはひねくれ者だから、多くの場合、こういう熱さにはちょっと引いてしまう傾向があるのだが、この映画に限っては製作者たちの姿勢に全面的な共感を覚えるしかなかった。こういう映画が作られ、人々がこれを支持する韓国という国に対して、嫉妬と羨望の思いを抱く感じがあった。様々な理不尽がまかり通っているにもかかわらず、もはやこういうふうになることはまったく考えられなくなってしまった日本という国が無性に悲しかった。 きっかけは、ソウル大学の一人の学生が警察の取り調べ中に死亡したことだった。当時の韓国では、敵である北朝鮮から国を守るという大義名分の下、反政府的な動向に対して厳しい弾圧が加えられていたのである。言論・報道の自由、集会・結社の自由などが奪われ、共産主義(スパイ)の疑いをかけられた市民に対する拷問なども日常的に横行していた。学生の死は当初は闇に葬られようとするが、疑問を抱いた一人の検事の抵抗から、のちに拷問死であったことが明らかになっていく。当局は暴力行為は一切なく単なる心臓麻痺と発表して誤魔化そうとするが、隠蔽された事実は徐々に表に出されて、真相究明を求める人々の動きが各所で顕在化していくことになる。映画はこの経過を軸に様々な人物を登場させ、複数のストーリーが絡み合うスリリングな群像劇として展開していく。 こうした構図の群像劇では、登場人物の善悪は最初からかなり区別されているから、一人一人の人物像は類型的になったり表層的なところで終わってしまう場合も多い。ところが、この映画は表情のアップを多用しながら、それぞれが抱えた内面の葛藤をしっかり捉えようとしているように見えた。安易に流れやすい悪役側も含めて、人物造形がきちんと行われていることが感じられたのである。 一例を挙げれば、この映画では悪役の筆頭として、逮捕者への容赦ない拷問などを指揮するパク所長は脱北者で、子どものころ家族を眼前で虐殺された経験から、共産主義撲滅に手段を選ばぬ執念を燃やすようになったと設定されている。これを演じたキム・ユンソクの存在感が素晴らしく、冷酷な外面だけでない屈折した内面をも感じさせて見事だった。 映画としては歴史の暗部に切り込む重い題材を扱っているが、全体的には実に豊かな娯楽映画になっているところも見事だった。後半、人々の怒りに火がつき、学生を中心とした抗議デモなどが広がっていく中で、延世大学の学生が催涙弾の直撃を受けて死亡したのは実際にあったことだったようだ。映画はこの学生イ・ハニョル(カン・ドンウォン)も群像の中に登場させ、彼の闘争に対する躊躇などもきちんと描き出した上で、彼に淡い恋心を抱く女子学生ヨニ(キム・テリ)を設定して、娯楽映画としては必須のラブストーリーまでしっかり組み込んでみせるのである。 ヨニの叔父ハンは刑務所の看守をしているが、陰で民主化運動の組織に属し、連絡員のような役割をしているという設定も効果的だった。ハンは顔が割れているから、ヨニは頼まれて何度か実際の連絡任務を代行したりしていたが、彼女自身は音楽やファッションにしか興味がない典型的な今どきの女子大生というところが巧い。そんな彼女もイ・ハニョルの死によって、大きくふくれ上がったデモ隊を前にした壇上に上り、一緒にシュプレヒコールを上げるのである。ラストシーンは、夕陽に照らされたこの情景を背後から捉えた引きのロングショットなのだが、これはやはり(判ってはいても)率直に感動してしまった。 民主化が、わずか30年前の苦しい闘いによって獲得された韓国と、それがあるのが当然という気分の中で、急速にそれが劣化しつつある日本との大きな相違を感じないではいられなかった。 (立川シネマシティ1、9月14日)
by krmtdir90
| 2018-09-15 11:41
| 本と映画
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