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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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映画「華氏119」

映画「華氏119」_e0320083_13584896.jpg
 これもアメリカで作られたドキュメンタリー映画だが、「ジャクソンハイツ」とは対照的に、最初から非常に明快な意図と主張を持って製作された映画である。それは、11月6日に行われるアメリカの中間選挙になにがしかの影響を与えたいということで、公開のタイミングを計りながら編集作業が行われていたらしい。こうして完成した映画は、アメリカでは9月21日から公開され、日本でも11月2日に緊急公開が実現して、何とか時期を外さずに公開に漕ぎ着けることができたということのようだ。
 マイケル・ムーア監督は、こんなふうにいつも行動的に、アメリカの現代と対峙するようなドキュメンタリーを撮り続けてきた人で、中でも今回のものは、特にアメリカの「いま」に真正面からコミットしようとした意欲作だったようだ。わたしは彼の映画を見るのはこれが初めてだったが、こういうふうに、ある時を意識しながら見てもらうことに最大の意義があって、時が過ぎればその意義がほとんど失われてしまうような映画作りというのがあってもいいのだという、一種の潔さのようなものは新鮮だった。いま、これを届けなければならないのだという、ムーア監督の切迫した思いは十分に伝わってくる映画だったと思う。

 「119」という数字は「ドナルド・トランプが米大統領選の勝利宣言をした2016年11月9日」を表したものだという。それがなぜ「華氏(温度計の摂氏に対する華氏Fahrenheitである)」なのかはよく判らないが、誰一人彼の勝利を予想していなかったあの日から、アメリカはいったいどうなってしまったのかを考えようとした映画である。
 ムーア監督は、常にセンセーショナルなやり方で映画を撮ってきた人のようだから、これもトランプを様々な角度から批判する映画なのかと思ったら、かなり違っていた。過激な批判ももちろんあったが、これはそれ以上に、きわめて冷静な現状分析に基づいて構成された、これからの望ましい行動指針についての提案の映画だった。フライヤーなどは一見キワモノのような印象を与えるが、実は非常に太い芯が通った、きちんと計算された映画だったのだ。この監督、見かけによらずなかなかの策士と見た。

 彼はもちろん、トランプその人の危険性を正面から指摘しているが、それ以上に、トランプを当選させてしまった原因がどこにあったのかということを明らかにしようとしている。それは、現在の絶望が何によってもたらされたのかを知ることなしには、希望に向かう道筋もまた見出せないはずだという決意表明になっているのである。
 原因はもちろん一つではない。だが、間違いなく言えるのは、アメリカ社会に起こっていた構造的変化を、マスコミも民主党も見誤っていたことが大きい。誰も予測しなかったトランプが当選したと言うことは、誰も予測できなかった地殻変動が起こっていたということであり、そこを突き止めて揺さぶりをかけない限り、中間選挙で方向転換を成し遂げることはできないだろう。
 では、彼がいま「なにがしかの影響を与えたい」と考えている対象はどこにいるのだろうか。トランプに共鳴する共和党支持層がこの映画を見に行くことは、まず100%あり得ない。2年前の大統領選の時、トランプを支持したのは6300万、ヒラリーを支持したのは6600万人だったとされている(選挙人制度によって逆転が起こった)。ムーア監督が注目しているのは、この時投票に行かなかった1億人の棄権者たちと思われる。この時の投票率は史上最低の55%まで落ち込んでいて、サンダースが予備選で敗れたことに失望して投票を止めてしまった層がたくさんいたのである。彼らに「今度はそれではまずい」と訴えることが、この映画の大きな目的になっているように思った。

 ムーア監督は、2年前の大統領選に際して、トランプ当選の可能性を予測していた数少ない著名人の一人だったようだが、そんなことは夢にも考えないマスコミは、視聴率のためにトランプを面白おかしく取り上げ続けたのである。
 ムーア監督はこの映画で、トランプと共和党、またトランプに支援されたミシガン州知事リック・スナイダーの悪行(水道水の鉛汚染放置)などを暴露しているが、同時にサンダースを降ろしてヒラリーを候補に選んでしまった民主党の堕落も具体的に指摘している(オバマ前大統領でさえ、彼の前では批判の対象なのである)。彼はさらに、大統領となったトランプの所業が、あのヒトラーが独裁者となっていく過程に酷似していることも指摘している。

 だが、こうした厳しい批判の一方で、彼は中間選挙でトランプに打撃を加えることになるかもしれない幾つかの動きについても(希望を持って)紹介している。彼はもちろんアンチ共和党だが、近年の民主党の変節にも絶望していて、そういう古い勢力にはもう期待することはできないと考えているようだ。むしろ、アメリカ各地で芽吹き始めている新しい動きをピックアップすることで、これからのアメリカの可能性を示そうとしているように見える。
 今回の選挙では、いままでは考えられなかった背景を持つ候補者が幾人も立候補していること、また、ウェストヴァージニア州の公立学校教員たちが団結して闘ったストライキのこと、さらに、銃乱射事件が起きたフロリダ州パークランドの高校生たちが、SNSで呼び掛けて銃規制強化を求める大規模な集会をアメリカ各地で成功させたこと、などである。映画の最後は、この集会で追悼の言葉を述べる高校生の姿で閉じられている。彼らは今回の中間選挙で投票することはできないが、次の大統領選挙(2020年)には選挙権(18歳)を手にしているはずだからである。ムーア監督は彼らにアメリカの未来を託そうとしているのである。

 中間選挙の結果がどう出るかはまったく判らないが、民主主義が危機に瀕していることを憂えて、それなりに影響力のある人間がこういうかたちで発言できるというのは、やはりアメリカの素晴らしいところなのだと思った。
 日本の総理大臣もトランプ以上にひどいことをしているのに、この国ではそれがあきらめにつながるばかりで、希望の芽がなかなか見えてこないことが悲しい。失望や無力感が広がり、無関心層と棄権者が増えていく時が、独裁者出現のチャンスになるというのは真理だと思う。傍観者的な言い方になってしまうが、日本の危機の方がより深いと感じざるを得なかった。
(TOHOシネマズ南大沢、11月3日)
by krmtdir90 | 2018-11-05 13:59 | 本と映画 | Comments(2)
Commented by 伊藤 at 2018-11-08 12:50 x
マイケルムーアはよく殺されないな。そんなことを不思議に思いながら作品を観ています。これがアメリカの大きさであり、自由なのでしょうか。私は最近、日本の政治よりも国民の無知、幼稚さにほとほと嫌気がさして、ほとんど諦めております。テレビをはじめマスメディアや世相を読み取り政権を補佐する某広告企業の力なのかもしれませんが、あまりに物事の本質を見る力を養おうとしない大多数の安穏族の姿を見て見ぬふりをするようになりました。私は戦争経験者の親の教えのおかげで平和の脆さを教えられています。自分しか感じていないこの危機感をまわりの仲間に伝えられない無力さに苛まれています。静かに戦争はやって来ていることに気付いている人がいても、AKBとオリンピックの煙幕にやられてしまうのです。日本はまだ民主主義を運営できるほどのレベルに国民が達していないのかもしれません。そして私も今はそれを嘆くことしか出来ておりません。
Commented by krmtdir90 at 2018-11-08 18:08
コメントありがとうございます。
何と返せばいいか、うまい言葉が浮かばないのだけれど、とにかくどんな認識であっても、あきらめて黙ってしまったら、そこでおしまいだと思っています。ぶつぶつ嘆き続けていきましょう。
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