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「石油食料交換計画(OFFP)」とは何か。湾岸戦争の際、サダム・フセインのイラクには国連による経済制裁が科せられたが、その内容はイラクの輸出入をすべて禁止するという厳しいものだった。このため、イラク国内は深刻な食糧不足や医療品不足に陥り、貧困層の子どもなどを中心に多くの死者を出すことになってしまった。この事態を人道的に救済するため、国連の管理下で一定量の石油の輸出を認め、その代金を国連がプールして、食料や医療品など必要な人道支援に直接充てられるようにしたプログラムである。しかし、膨大な予算がつぎ込まれる事業だったため、様々な利権や思惑などがからみ合い、底なし沼の汚職スキャンダルに発展していったようだ。 映画は、告発者マイケル・スーサンをモデルとした24歳の青年、マイケル・サリバン(テオ・ジェームズ)が国連職員として採用され、国連事務次長コスタ・パサリス、通称パシャ(ベン・キングスレー)の下でイラクのバグダッドに赴任し、この「石油食料交換計画・OFFP」に携わっていくうちに、背後のスキャンダルをめぐる争いに巻き込まれていくというものである。 硬派のポリティカル・サスペンスといった感じの映画だが、こういう難しい題材を文句なしの娯楽作品に仕上げてしまうところが素晴らしいと思った。こういうリアルな背景を持って展開するストーリーというのは、見ていて理屈抜きに面白いし大好きである。デンマーク・カナダ・アメリカ合作の映画だったが、監督・脚本はデンマーク出身のペール・フライという人で、非常に切れ味鋭い演出をする監督だなと思った。 バグダッドにある国連の現地事務所の所長はクリスティーナ・デュプレ(ジャクリーン・ビセット)という女性で、彼女は「石油食料交換計画・OFFP」が破綻しているという報告書をニューヨークの国連本部に送ろうとしている。マイケルの上司である事務次長パシャは、このプログラムがすでにスキャンダルにまみれていることを承知しているが、それでもないよりは民衆の助けになっているとして、デュプレ所長の報告書を阻止しようと画策している。マイケルの周囲には、この2人の他にもプログラムをめぐる様々な利害関係が錯綜していて、この状況下でマイケルはどう動くのかというのが映画の当面の興味になっている。 映画ではさらに、通訳のナシーム・フセイニ(ベルシム・ビルギン)という女性をマイケルに絡ませ、2人の間に恋愛模様まで生まれてくるという展開を用意している。このナシームはイラク北部出身のクルド人という設定になっていて、サダム・フセインによって迫害されてきたイラクのクルド人という問題が、さらにもう一つの重要な要素として関係してくることになるのである。 バグダッドの事務所でマイケルの前任者だった国連職員は、「OFFP」に関するスキャンダルの核心情報を入手したため殺されたことが、ナシームの口から語られる。彼女はこの情報が入ったUSBメモリーを入手していて、今度はこれをマイケルに託すのである。映画としては、このあといろいろなことが目まぐるしく展開し、暗号化されたこの情報は映画の終盤になって解読され、マイケルの手でニューヨークのウォール・ストリート・ジャーナル社に持ち込まれることになる。だが、そこまでにデュプレ所長やナシームも殺害されてしまうのである。 事務次長パシャはスキャンダルに絡んでいたが、逃亡してしばらく隠遁生活を送ったことが描かれている。多くの国連幹部、政治家や高官、さらに関連企業の幹部などの名前が挙がったが、中で大きな衝撃を与えたのは、経済制裁の対象であったサダム・フセインが、この「OFFP」の取引で100億ドルもの裏資金を得ていたことだった。フセインを追い込むための計画が、逆に彼を富ませる結果となっていたのである。ただ、2003年のイラク戦争勃発とフセイン拘束の後、同年末までにこの「OFFP」は終了することになったようだ。 国連主導の人道支援などと言うと、それだけで何となく信じてしまうようなところがあるのではないか。だが、巨額の予算が動くところでは、国連と言えども聖域というわけではないのだ。支援物資の医薬品が横流しされ、病院に届くのはすり替えられた期限切れの薬ばかりだと暴露されるシーンがあったが、救われるべき命が救われないケースも、案外たくさんあったということなのかもしれない。 国連の平和維持活動などというのも果たしてどうなのかと、疑わなければならない気分になってしまうのは残念なことである。非常に面白い娯楽映画でありながら、重いテーマを考えさせられるものになっているのが凄いと思った。 (新宿シネマカリテ、11月6日)
by krmtdir90
| 2018-11-08 13:35
| 本と映画
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