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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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映画「共犯者たち」

映画「共犯者たち」_e0320083_16532080.jpg
 いわゆる慰安婦問題や徴用工問題の経緯、さらに最近のレーダー照射問題などを見ていると、韓国という国をどう捉えたらいいのか判らなくなってしまうし、それ以上に、いま韓国という国に対して好意を持つことは難しいなという気分が湧いてきてしまうのである。だが、これらの問題は政治的な駆け引きのように扱われているところがあるから、こうした経緯のセンセーショナルな側面に引き摺られて、先入観や偏見で韓国の人々のことを考えてしまうのはいいことではないだろうと思う。
 昨年来、日本でも相次いで公開された「タクシー運転手/約束は海を越えて」や「1987、ある闘いの真実」といった韓国映画を見ると、この国の映画が光州事件や民主化闘争といった現代史の生々しい部分を積極的に取り上げ、きわめてオープンな態度でこれらの歴史的事実を捉え直そう(評価し直そう)としていることが見て取れると思う。そしてさらに、これらの映画が韓国国内でかなりのヒットを記録していることに、ある種の驚きを感じないではいられないのである。
 この国の人たちはけっこうしつこいところがあって、納得していないことを簡単に諦めたり忘れたりはしないということなのだろう。たぶん、そこが日本人との大きな違いなのだと思う。

 今回の映画はドキュメンタリー映画である。2008~13年の李明博(イ・ミョンバク)政権と2013~17年の朴槿恵(パク・クネ)政権が、政権に対して批判的な姿勢が目立っていた韓国放送界に、激しい言論弾圧を加えたという実態を実名で告発しているのである。韓国でそういうことがあったというのは、日本ではほとんど報道されなかった(知られなかった)と思うが、いまこうしてその経緯が明かされてみると、あらゆる弾圧に抗して一貫して闘い続けた多くのジャーナリストが存在したことに、目を見張るような思いがするのである。
 韓国のTV放送は、公共放送のKBSと公営放送のMBCが全国規模のネットワークを持っているらしいが、これらの放送局は、全斗煥(チョン・ドゥファン)政権による独裁(1980~88年)を許してしまった反省から、民主化されたのちは、番組作りにおいては常に時の政権に対して批判的な視座を保持し続けることを使命のように考えてきたようだ。しかし、これを快く思わない李明博大統領は、その権限を最大限に利用してKBS・MBC両局への人事介入を行い、政府に批判的なニュースや時事番組を制作した局員を配置転換したり解雇したりして、放送局としての方向性を政権寄りに偏向したものに作り変えてしまったらしい。そして、彼に続いた朴槿恵大統領も同様の路線を踏襲したのだという。

 この映画のチェ・スンホ監督は、MBCで「PD手帳」という時事番組を作っていた敏腕プロデューサーだったようだが、上記の政治介入によって制作現場から一方的に外され、労組による抗議の長期ストライキを経て、結局は不当解雇されてしまった一人だったらしい。だが、彼は簡単には引き下がらず、映画という手段で反撃に出る時を待ち続けていたようだ。この映画は、映画としては非常に複雑で多岐にわたる出来事を次々に並べているので、その展開を追っていくのはかなり難しいところもあったが、それでも彼らの抵抗が何に向けられているのか、彼らが何を守ろうとしているのかはよく判るように描かれていたと思う。
 政治権力の座にある者が、卑劣な手段を総動員して報道の自由を押し潰しにかかってきた時、それに全力で抗い反撃しなければならないと考える勢力があったことを、この映画は真正面から記録している。その描き方があまりに真正面過ぎるので、逆に驚いてしまうくらいの感じなのである。このストレートさが韓国なのかもしれないと思った。
 その後どういう経過があったのかはよく判らないが、2017年に文在寅(ムン・ジェイン)政権がスタートし、夏にこの映画が公開されて、年末にはチェ・スンホ監督がMBCの社長に就任するという「大逆転」が起こったらしい。同時に、解雇されていた社員の現場復帰もかなり実現しているということのようだ。

 この映画を見ながら、日本の現政権とNHKの関係がどうなっているのかを考えないではいられなかった。以前からNHKの公正さには疑問符が付いていたと思うが、ここ数年の政権への癒着ぶりはちょっとひどすぎるのではないかと感じていた。数年前、NHKを始めとする各局で、政権に対して臆せずもの申すというキャスターたちが相次いで降板した(させられた?)ことも記憶に新しい。
 この映画で描かれた言論弾圧は、いままさに日本の放送界で着々と進行していることなのではないのかと感じた。それに対して、日本のジャーナリズムは大丈夫なのかと、韓国のジャーナリストたちに真正面から問いかけられているような気がした。
 ここでは、安倍政権がメディアに圧力をかけているかどうかの判断は保留しておくが、問題はもしそういうことが行われた時に、日本にはみずからの存在を賭けてこれと対峙できるジャーナリズムが、果たして存在しているのかということなのである。それが疑わしいように思えてしまうのは残念なことだし、きわめて危険な事態に日本が陥っているということなのではないか。
 少なくとも、こういう映画が何の躊躇もなく作られ、公開されるとそれなりの観客を動員してしまう韓国という国を、羨ましいと感じてしまうのをどうすることもできなかった。
(ポレポレ東中野、1月8日)
by krmtdir90 | 2019-01-17 23:59 | 本と映画 | Comments(0)
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