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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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映画「福島は語る」

映画「福島は語る」_e0320083_21403626.jpg
 あれからもう8年が経ったのだ。その間に、様々なことが風化し忘れ去られていくのは仕方がないことなのかもしれない。だが、あれほどのことを経験した後で、露呈した問題をきちんと決着させられていないことを忘れていいということではない。決着させなければならなかったことが、まだたくさん残っているのではないか。
 来年は復興五輪だなどと名付けて、平然としていられる無神経を許してはならない。復興の名の下に、なかったことにしてしまっては絶対にいけないことが至るところに転がっているのだ。そのことを思い出させてくれる映画だった。そのことを容赦なく突きつけてくる映画だと思った。テレビや新聞にはとうていできない、映画の力をひしひしと感じさせられる170分だった。わたしなどが言うのはまったくおこがましいのだが、多くの人に是非観てもらいたい映画だと思った。

 監督の土井敏邦氏は2014年から4年にわたって、100人近い人々へのインタビュー映像を集めたのだという。その中から14人の証言を選び出して並べたのがこの映画である。
 映像の大半はインタビュー対象者の語りを正面から捉えたバストショットで、この人たちの言葉と表情とを淡々と記録し続けたものである。あらゆる技巧は排除されていて、率直に言ってしまえば、これ以上単調なやり方は考えられないような画面構成なのである。にもかかわらず、その画面から徐々に目が離せなくなってしまうのはなぜだったのか。
 土井氏はこれらの映像にほとんど何も付け加えていない。それぞれの人について必要最小限の履歴が字幕で示されるだけで、それ以上の説明などは一切してはいないのである。そのきっぱりとした潔さが、逆に観る者の想像力を掻き立てるのだと思った。

 土井氏はこの映画に関する文章の中で次のように述べている。「原発事故で人生を狂わされ、夢や未来を奪われ、かつての家族や共同体の絆を断ち切られ、“生きる指針”さえ奪われた被災者たちの“深い心の傷”は癒えることなく、今なお、疼き続けています。ただそれは、平穏に戻ったかに見える福島の光景からは見えてきません。その“傷”を可視化する手段は、被災者たちが語る“言葉”です。私はこの映画で、その“言葉”の映像化を試みました。“言葉の力”に賭けてみようと思ったのです」。また、その上で次のようなことも付け加えている。「しかし、証言者から引き出す“言葉”が単に現象や事件の羅列に終わってしまっては、人の心に届きません」「事象ではなく“人間”を描き伝えなければ、人の心を動かせないのです」。
 この最後の言葉は重い。別のところで土井氏は、2015年にノーベル文学賞を受賞したスベトラーナ・アレクシエービッチの「チェルノブイリの祈り」に言及している。「そこにはアレクシエービッチ自身の解説はない。ひたすら被害者たちの生々しい語りが続く。しかもそれは単なる『事実の羅列』ではない。その言葉が、読む私の心に深く染み入るのだ。『被害者の証言』だけの作品なのに、なぜこれほどまでに私は衝撃を受けたのか。なぜこれほど読む者の心を揺さぶる語りを聞き出せたのか」。彼はここから、みずからの映画に何が欠けているかを考えようとしている。
 彼はさらに述べている。「どんな過酷な事象や体験をも、『尊厳ある伝え方』で伝えていく」ことが必要なのだ。「目の前に現れる、また語られる現象や事実を、ただ表象をなぞるのではなく、その本質と尊厳を見出す目」を持たなければならないのだ。

 ここに述べられた土井氏の姿勢は、この映画の中でしっかりと貫かれていたと思う。再び土井氏の言葉を引用する。「原発事故がもたらした事象やその特殊性だけを伝えるのでなく、それを突き抜けた“人間の普遍的な課題”に迫る“言葉”を引き出さなければならないと考えました。例えば『生きるとは何か』『人間の尊厳とは何か』『幸せとは何か』『家族とは何か』『故郷とは何か』といったテーマです。そこまで迫り切れなければ、『所詮、自分とは関係のない遠い問題』に終わってしまうのではないか」。
 この映画が、福島を描いたドキュメンタリーとして抜きん出た力を獲得していたのは、こうした問題に対する土井氏自身の深い考察があったからだと思う。もう終わったこととして忘れられ、切り捨てられようとしている人々の切実な声を、いま、こういうかたちで記録に残した意味は非常に大きいと思う。国民の多くはあの時、決して「自分とは関係のない遠い問題」とは思っていなかったはずなのだ。それを強烈に思い出させてくれる映画だった。
 インタビューの合間に挿入され、最後に集中的に映し出される福島の里山の風景が美しい。それにテーマ曲の「ああ福島」というリフレインが重なってくると、何とも言えず、胸を締め付けられるような感じがして困った。季節が何度もめぐり、その繰り返される季節の中で、表面的には元に戻っているように見えてしまう福島の風景が悲しかった。
(渋谷ユーロスペース、3月15日)
by krmtdir90 | 2019-03-25 21:41 | 本と映画 | Comments(0)
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