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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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映画「ROMA/ローマ」

映画「ROMA/ローマ」_e0320083_229513.jpg
 今年のアカデミー賞で、作品賞を始め10部門にノミネートされ、最終的に監督賞・撮影賞・外国語映画賞の3部門を受賞したメキシコ映画である。これより前にも、ベネチア国際映画祭コンペティション部門で金獅子賞を、ゴールデングローブ賞映画部門で監督賞・外国語映画賞を受賞して、その都度大きな話題となっていた映画なのだ。その理由は、この映画が現代の映画シーンが直面しているきわめて重大な問題と関係していたからである。
 それは、この映画が従来のような、映画館で公開することを前提として作られた映画ではなかったということなのである。わたしは詳しいことは知らないのだが、現在ではネットを使って映像や音楽などを配信する会社がたくさん出来ていて、その中でも大手のNETFLIXというところが配信したのがこの映画だったのである。この映画の監督アルフォンソ・キュアロンはNETFLIXと契約を結び、NETFLIXのオリジナル作品としてこの映画を製作したということらしい。

 始めは映画館で上映され、のちにテレビやネットに流れたという作品ではないのだ。最初からテレビやネットで配信されることを目指した作品が、果たして従来の映画と同列に扱われていいのかという問題がそこでは提起されている。この問題は数年前からかなり問題にはなっていたようだが、今回初めて賞レースに参戦するような作品が現れたことで、各賞を運営する側がどう対応するかが注目されていたらしい。上記の受賞は、それに対する一応の答えになったということだったようだ。
 日本でもNETFLIXに接続することは出来るようだから、昨年来この作品をネットで観ることは可能だったらしい。しかし、今回のアカデミー賞をめぐる経緯から、イオンシネマ系列が急遽公開を決めてくれたことで、日本では普通に映画館で観ることができるようになったのは喜ばしいことだと思う。この映画はモノクロだし、スコープサイズなので、やはり映画館でちゃんと観られるかどうかは非常に重要な問題だったのではないかと感じた。

 だが、調べてみると、アルフォンソ・キュアロン監督がこの映画をこういうかたちで製作することにした背景には、あまりに地味な内容なので、この企画に乗ってくる映画プロデューサーがまったくいなかったということがあったらしい。
 アルフォンソ・キュアロン監督はメキシコ出身の監督だが、主にアメリカで英語の映画を撮ってヒット作を連発していたらしい。だが、今回は故国メキシコに戻って、1970~71年のメキシコシティを舞台にして半自伝的映画を撮りたいと考えたようだ。ずっと商業的映画を撮って成功を収めてきた監督が、そういう映画とは無関係のところで、みずからの出自に関わる原点を確認する映画を作ろうとしたとも言えるようで、どういうかたちであっても、これを実現させることを最優先に考えた結果だったのだろうと思われた。

 タイトルの「ローマ」というのは、メキシコシティにローマ地区(Colonia Roma)というところがあるらしく、その地区に暮らすそれなりに裕福な家族(メキシコは強固な階級社会が残っていたようで、この家族はかなり安定した生活が送れる中産階級ということになるようだ)と、そこに雇われた家政婦クレオを主人公とした物語が展開する。家族には4人の子どもがいるが、末の男の子にアルフォンソ・キュアロン監督は自身の子ども時代を投影していたようだ。
 時代背景などは文字通り背景として断片的に描かれているだけだが、格差の拡大による国民の対立なども見えて、社会的にはかなり矛盾をはらんだ困難な時代だったようだ。
 自伝的な要素を含んだ映画だとすれば、1961年生まれだというキュアロン監督が、9~10歳の頃にその目で見た様々な出来事が、いまになればすべてが判るというところから一つ一つ捉え返されているのだと思う。エピソードを描く時のこの距離の取り方が、何とも懐かしい空気を表現しているような気がした。どの映画と特定できるわけではないのだけれど、昔のモノクロだったイタリア映画やフランス映画の雰囲気をどことなく感じた。メキシコやスペインにはまったく縁がないが、何となく過去に見たことがあるような気がしたのは不思議だ。

 家族の物語としては、医者である夫が外に女を作って出て行ってしまい、残された妻ソフィアの葛藤と苦悩といったようなものが、かなり距離感を持った視点で描き出されていく。家政婦のクレオは階級的にはずっと下になる先住民系の女性のようだが、長年この家に仕えてきたことから、家族の不幸を意識しながらも、子どもたちやソフィアからは厚い信頼を受けて働いているということである。一方、彼女の物語としては、恋人に妊娠の事実を告げたことで疎まれることになり、消息を調べて訪ねて行くが拒絶されてしまい、ソフィアや同居する祖母は子どもを産むことを応援してくれるが、結局は死産に終わってしまうという展開が描かれていく。
 ソフィアもクレオも、男に裏切られて一時は絶望の淵に沈むのだが、そこからまたみずからを奮い立たせ、新たに歩み出して行くところをこの映画はある意味淡々と描き出していく。かなりドラマチックなところもあるのだが、全体が遠い記憶の底に沈んでいた過去を思い出すような描き方になっているので、懐かしい距離感が事実を不必要に強調することなく、静かに受け止められる感じになっていて好感が持てた。全体として、しみじみとした情感を漂わせているのが良かった。
(イオンシネマ シアタス調布、3月19日)
by krmtdir90 | 2019-03-27 22:10 | 本と映画 | Comments(0)
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