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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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映画「カスリコ」

映画「カスリコ」_e0320083_15321294.jpg
 昭和40年代の高知を舞台にした映画である。名高い料理人だった岡田吾一(石橋保)は賭博にのめり込んで破滅し、店を手放し妻子を故郷に帰して一人途方に暮れていた。そこにヤクザの荒木五郎(宅麻伸)が現れて、吾一に「カスリコ」の仕事を紹介するというのが発端である。
 カスリコというのは、賭場で客の世話や使い走りをして祝儀を恵んでもらうという、賭場のシステムの最下層で雑用などに使われていた人間のことらしい。賭場のテラ銭のことをカスリと言うようだが、そこから僅かな上前を期待して動き回ることから「物乞いと一緒」と見られたりすることもあったようだ。かつてみずからが羽振りをきかせて出入りした賭場で、そういう卑屈な日々を送ることになってしまった男の人生を、この映画は追いかけていくことになる。
 映画の中で、ヤクザの荒木と吾一の関係については何も触れられていないが、荒木は様々な場面で吾一の再起を親身になって後押しする。荒木は任侠の世界で筋を通してきたような昔気質のヤクザだが、堅気の吾一との接点は、恐らく彼の作る料理に惚れ込んでいたということだったのではなかろうか。一旦はすべてを失ってしまった吾一に力を貸すのは、彼に料理人として再起して欲しいという思いからだったように思えた。吾一も荒木の期待に応えるべく頑張って、ようやく光明が見えてきたところで運命が暗転するというのがストーリーである。

 「月刊シナリオ」のコンクールで入選した脚本だったようだが(脚本:國吉卓爾)、ストーリーの展開としては特に目新しいところがあるわけではない。だが、映画としては賭場で行われる「手本引き」の様子が克明に写し取られていて、そこに流れるドラマチックな緊迫感はなかなかの見ものになっていたと思う。東映のヤクザ映画(例えば「緋牡丹博徒」シリーズ)などで「手本引き」にはこれまで幾度となくお目にかかって来たが、その勝負の経過をこんなふうに詳細に見せてくれることはなかったのではないか。
 ここがこの映画の最大の見せどころになっていたと思う。アクションなどまったくない映画なのに、賭場で行われる「手本引き」の一部始終が、非常にスリリングな空気を醸し出していて面白かった。購入したプログラムにもルールなどが丁寧に解説してあって良かった。
 終盤、ほとんど足を洗うことに成功したかに見えた吾一が、成り行きとはいえ、最後に因縁の胴師・源三(高橋長英)との大勝負に引き寄せられていってしまうのは悲しかった。ある程度勝ったところで切り上げるということができない、やっているうちに憑かれたようにのめり込んでいってしまう、恐らく我を忘れているわけではなく、深みにはまっていく自分を冷静に認識しているもう一人の自分もいるように思える、そのどうにも止めようがない孤独な熱狂をよく捉えていたと思う。所詮は歯止めの効かない馬鹿な男ということになるのだが、どん底から這い上がろうとしていた時の彼の努力に嘘はなかったはずだし、それでも盆の前に座るとつい本気になってしまうところはどうにも変わらなかったということなのだろう。

 今どき珍しいモノクロ映画だった。それが題材とマッチしていて良かったと思う。だが、映画全体としてはやや説明的になり過ぎるところがあり、賭場のシーンは興味深く見られたが、その他の部分では描写の仕方がやや凡庸でキレが欠けていたようにも感じた。監督の高瀬將嗣は長年殺陣師としてやって来た人のようだが、最近は監督の方にも進出しているということのようだ。今年62歳、監督の力としてはそれほど見るべきものを持っているようには思えなかった。
(渋谷ユーロスペース、6月25日)
by krmtdir90 | 2019-07-05 23:59 | 本と映画 | Comments(0)
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