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このところ次々とニュースを賑わせ、真相が明らかにされないままうやむやにされてきた、現政権の闇とも言うべき幾つかの事件をモデルにしたストーリーが展開する。だが、そうした題材を取り上げることの困難さの前で、製作側が「取り上げたことそれ自体」で自己完結してしまって、その周囲にリアリティあるドラマを構成することを蔑ろにしているような印象を受けた。 事件そのものの扱い方、事件との距離の取り方がふらついているように感じた。誰が考えても明らかにおかしい「からくり」の詳細を描くことから(厳しい言い方になるが)目を背けてしまって、荒唐無稽としか言いようのないフィクションに逃げてしまったように思えた。取り上げたことは立派なことかもしれないが、それをどう描いていくのかというところで、製作側の腰が据わっていなかったことが最後に露呈してしまったように思えて残念だった。 とは言え、この映画の功績として、内閣情報調査室の卑劣な実態にスポットを当てたことは評価しておかなければならない。昨今のマスコミの偏向ぶりやネトウヨの跋扈などを見ていると、現政権を維持するためにどんなに汚いことが行われているのか。手段を選ばない情報管理や世論コントロールが、信じ難いかたちで進行していることを感じないではいられない。 その意味から、内調に所属する若きエリート官僚(杉原:松坂桃李)を主人公の一人としたことに異論はまったくない。彼が自分の仕事に疑問を持ち始めるという展開もいいと思う。だが、彼をめぐる人間関係の作り方が単純化され過ぎているため、その葛藤がもう一つリアリティを持って浮かび上がって来なかったように感じられた。彼の現在の上司を完全な悪役にしてしまったことも安易と言わざるを得ない。杉原に守るべき家族があるように、この上司にもそうしたものがあるはずだからである。主人公周辺の人物をどう固めるかというところで、この映画は善なる部分に偏り過ぎたことが良くなかったように感じた。 圧力とか計略というのは、最初から卑劣さ丸出しで近寄ってくるわけではない。もっと巧妙なシステムとして内調の一人一人を絡め取っているのだと思う。 これは、もう一人の主人公・新聞記者の吉岡エリカ(シム・ウンギョン)の描き方にも言えることである。報道の自由に対する有形無形の圧力は、彼女やその同僚たちを様々なかたちで縛っているのだと思う。だが、この映画は彼女一人に寄り添い過ぎたため、その一途な行動が持つ危うさや軋轢といったものを、ほとんど描けないまま進んでしまったように思わざるを得なかった。社内における彼女の周辺をもう少し丁寧に描かないと、新聞記者が置かれている困難な状況は浮かび上がって来ないのではないかと感じた。 この映画は、原案にしたという望月衣塑子記者の印象に引き摺られてしまったのかもしれない。吉岡一人をどんなにクローズアップしても、それだけでは彼女が背負っているものは見えて来ないということではないか。彼女の設定を一匹狼的にしてしまったことは誤りで、そういう意味でこちらも主人公の周囲の人間をもっと描かなければいけなかったように思う。 こういう題材を、プロパガンダではなくエンターテインメントとして組み立てるという姿勢はいいと思う。だが、その方向性をきわめて中途半端なかたちで終わらせてしまったのではないか。期待が大きかった分、非常に残念な気分が残った。監督:藤井道人。 旅行前に観た映画で、早く旅行記に着手したいところだが、やはり順序としてこの感想を書かないと先に進めない感じがして、やはりスッキリしてから旅に出るべきだったと後悔している。 これで、やっと旅行記に進めるようになった。 (イオンシネマ日の出、7月2日)
by krmtdir90
| 2019-07-20 13:53
| 本と映画
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