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映画のメモノートを調べると、井筒和幸監督の映画は「ガキ帝国」(1981年)と「二代目はクリスチャン」(1985年)を観ていることが判ったが、どちらもまったく記憶からは消えてしまっていた。映画から離れてしまった時期もあるので、キネ旬ベストワンとなった「パッチギ!」(2005年)は観ていないし、今回はほとんど初めて井筒和幸監督の映画を観たと言ってもいいように思う。1952年生まれの井筒監督は、今年68歳ということで「アウトサイダーを描き続けてきた井筒監督の真骨頂にして集大成」という惹句が付けられていた。 確かに「集大成」なんだろうなと思った。上映時間は146分だったが、集大成としてはもう少し時間をかけたかったのではないかと想像した。1956(昭和31)年に始まり、昭和という時代を生き抜いたある「アウトサイダー」の人生を描き出すという作品である。何とも壮大なストーリーに挑戦しているのだが、この上映時間ではどうしても全体が駆け足になってしまい、野心作には違いないが、個々のエピソードがやや羅列的で物足りない印象になってしまったのではないか。ただそれでも、井筒和幸という監督がどんなものを追いかけてきたのかはよく判ったし、この映画に貫かれていた視点というのは大いに共感できると感じた。 ヤクザを描いた映画だが、これまで観てきた多くのヤクザ映画とは明らかに異なる視点を持った映画である。マフィアを描いた「アイリッシュマン」(マーティン・スコセッシ)と同様、彼らもまた時代に翻弄されながら必死に生きていたのだということを、ごく当たり前のこととして描き出そうとしていたことが判った。 静岡の田舎町で、極貧の家に生まれ育った主人公・井藤正治(松本利夫)が、生きるためにヤクザと関わりを持つようになり、その中で自らの才覚を頼りに頭角を現していく過程が描かれる。少年時代から青年時代にかけては別の俳優(中山晨輝・斎藤嘉樹)が演じていたが、ストーリーとしてはこのあたりをもう少し丁寧に辿って置く必要があったように思う。松本利夫になってからは(他の様々な脇役とともに)なかなかの存在感を放っていたと思うので、そこに至るまでの彼の「原点」について、もっと印象に残るかたちで語ってほしかった気がした。 そう感じたのは、このストーリーの最後の閉じ方と関係している。多くの抗争を経て、自ら井藤組を興して組長となり、様々な組が消長を繰り返すヤクザの世界を生き抜いた彼が、2002(平成14)年、60歳になった時に組を解散することを決意するというエンディングは意外だった。当然のことながら、これまで彼の周囲には数多くの犠牲(死)が積み重ねられてきたのであり、その血にまみれた日々を描いてきたこの映画が、最後に主人公が生き延びて次の人生に歩み出すという終わり方を選んだことが、何とも言えず新鮮な驚きだったのである。こんなふうに終わるヤクザ映画はこれまでなかった。 この終盤で挿入されているのが、旅先のカンボジアで出会った貧しい子どもたちの姿である。彼は子どもたちの境遇に自らの出自を重ね合わせ、もう一度違う人生を歩むことはできないかと考えたことが暗示されている。そういうふうに、一つの円環を描いてこのストーリーを閉じたいと考えたのであれば、観客としては興行のことは考えなくてもいいから(全国10館ほどの興行なら、最初から興行収入は高が知れている)、井筒監督には4時間でも5時間でも好きなだけ尺を費やして、記録に残るような「集大成」を撮ってほしかった気がした。この監督は、たぶんそういう「ツッパリ」を好んでいるはずだと思ったのだが。 (川越スカラ座、12月14日)
by krmtdir90
| 2020-12-24 14:55
| 本と映画
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