人気ブログランキング | 話題のタグを見る

18→81


主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30
最新の記事
最新のコメント
記事ランキング

映画「ある男」

映画「ある男」_e0320083_22200398.jpg
 キネマ旬報ベストテンで第2位になったからだろうか、凱旋上映と銘打った再上映が行われていることを知って、ちょっと観ておこうという気分になった(観客もそれなりに入っていた)。平野啓一郎の原作は読んでいないが、監督は2017年に観た「愚行録」で印象的な演出を見せていた石川慶だった。
 原作との関係は判らないが、脚本(向井康介)は非常に的確にストーリーのポイントを押さえていて、石川慶監督の演出の方向も良かったのではないかと感じた。描かれているそれぞれの人生はかなり特異なものだったが、最終的になるほどなと納得させられるだけの説得力があったと思う。
 ミステリ的な要素を含んだストーリーはそれほど単純なものではなく、描き方のバランスが崩れたら何が何だか判らなくなってしまうようなところがあったと思う。事前情報なしで観に行ったので、最初、里枝(安藤サクラ)と谷口大祐(窪田正孝)の出会いから結婚、そして大祐の事故死に至る経緯が描かれた後で、この夫・大祐が実は名前も判らない全くの別人だったことが判明するという展開は、予告編などで一応は知っていたが、何をやりたいんだ?と想像力を掻き立てられるのに十分な設定になっていたと思う。里枝(再婚だった)は以前に離婚調停で世話になった弁護士の城戸(妻夫木聡)に調査を依頼し、ここから谷口大祐を名乗っていた男の過去が徐々に掘り起こされていくことになる。

 里枝と谷口大祐を名乗った男はもちろん主人公の一人だが、それ以上にこのストーリーは弁護士・城戸を描こうとしていることが明らかになってくる。調査の過程で戸籍交換という裏ビジネスの介在が明らかになり、そのブローカーで現在収監中の小見浦という男(柄本明)に辿り着き、刑務所の面会室で二人が対峙するシーンは圧巻だった。いや、圧巻だったのは柄本明の演技であって、それを受け止める妻夫木聡の方は(難しい受け芝居なのは判ったが)若干物足りなかった。ここで城戸が在日韓国人三世だったことが判明するのだが、そのことが、谷口大祐を名乗った男が戸籍交換という手段で別の人間になろうとした事情と心情的に共鳴していくところが、展開としてやや描き切れていないような感想を持ってしまった。それは妻夫木聡の責任だったのではないか。
 城戸が、妻・香織(真木よう子)との生活もすれ違い始めていて、現在の自分に様々な行き詰まりを感じているらしいのは見えていた。だが、最後のシーンで彼が、明らかになった本当の谷口大祐の素性を自分のものにする(そのふりをする)ところは、エンディングの設定としてはなかなか巧いなと理解できたが、そこに至る城戸の内面を妻夫木聡が演じられていたかと言うとやや疑問符がつくような気がした。妻夫木聡の演技は(確か「愚行録」にも出ていたと思うが)自然で淡々としたところに主眼があるようで、大袈裟で説明的なことはしたくないというのは判ったが、当人はやれているつもりでもやれていないところがあったのではないかと感じた。
 石川慶監督の演出が、基本的に自然でさりげない表現を指向しているのは明らかで、安藤サクラを始め多くのキャストはそれに応えた押さえた演技を披露していて良かった。中で、柄本明をこういうふうに造型したのも(監督だったのか柄本だったのかは判らないが)見事だと思った。全体が静かな空気感で満たされているところに、唐突にこういう暴力的?な場面を置いたところが、石川慶監督の優れたバランス感覚という気がした。
 他の多くの場面については(特には記さないが)、何かを強調しているという訳ではないのに、きわめて印象的な場面が連続していたと思う。ストーリーとしては「謎解き」に当たる、谷口大祐を名乗っていた男の過去が明らかになってくる部分も、石川監督は場面に明確な空気感の違いを作りながら丁寧に描いていたと思う。窪田正孝も難しい役どころを的確に演じ分けていたのではないか。あと、里枝の子どもでニセ大祐とは義理の父子となる悠人を演じた坂本愛登という少年も良かった。オーディションで選ばれた新人だったようだが、この自然な演技を引き出した石川慶監督の演出力のたまものと言っていいのだろう。
(MOVIX昭島、3月13日)

by krmtdir90 | 2023-03-18 22:22 | 映画 | Comments(0)
<< 映画「Winny」 映画「オマージュ」 >>


カテゴリ
以前の記事
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 08月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
画像一覧
フォロー中のブログ
最新のトラックバック
メモ帳
ライフログ
検索
タグ
外部リンク
ファン
ブログジャンル