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主なテーマ、最近は映画ばかりになってしまいましたが、この何年か海外旅行にも興味があって、もともとは鉄道旅、高校演劇、本などが中心のブログだったのですが、年を取って、あと何年元気でいられるかと考えるようになって、興味の対象は日々移っているのです。
by natsu
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映画「Winny」

映画「Winny」_e0320083_21561099.jpg
 実話だという。アメリカ映画なら、たぶん冒頭に「True Story」の字幕が出るのだろう。日本映画としてはけっこう珍しい、社会性のあるテーマを正面から扱った映画だった。裁判のシーンが中心となる映画なので、地味と言えば地味な題材なのだけれど、それを骨格のしっかりした娯楽映画として成立させていたのは見事だった。監督・脚本の松本優作は1992年生まれの新鋭らしいが、明瞭な問題意識をエンターテインメントに組み上げてしまう力は並のものではないと感じた。

 わたしは完全なアナログ世代だから、いまでこそ何とかSNSやインターネットを利用するようになっているが、2004年に起こったらしいこの「Winny事件」のことは何も知らなかった。2002年に開発され発表されたWinnyというコンピューターソフトが、様々な著作権侵害の温床になったとして、開発者の金子勇氏が著作権法違反幇助の容疑で逮捕され、2011年に最高裁で無罪が確定するまで、7年に渡って不当な追及を受けることになった事件である。映画はこの経過の中から、2006年に最初の京都地裁で有罪判決が下されるまでを描いている。最終的には無罪になるのだが、そのあたりのことは最後に簡単に触れられているだけである。最後には、金子勇氏が2013年に急性心筋梗塞で42歳の短い生涯を閉じたことも紹介されている。映画はこの金子勇氏(東出昌大)と、彼の弁護を担当した壇俊光氏(三浦貴大)を始めとする弁護団の動きを追いかけていく。
 この事件の本質は、確か壇弁護士が言っていたことだと思うが、ナイフで人を刺す殺人事件が起こったとして、罪に問われるのは刺した人間であって、ナイフを作った人間を罪に問うことなどあってはならないということに尽きるだろう。Winnyというソフトによって著作権侵害など様々な不法行為が行われたとしても、ソフトそのものの革新性や開発者の業績までも否定されてしまったら、これから新たなものを生み出そうとする技術者の意欲に決定的なダメージを与えることになってしまうのではないか。ここに登場する金子氏や檀氏の主張は明快で、そこに共感を寄せるこの映画の視点もまったくブレることはなかった。
 この映画の良さは、金子氏や檀氏など様々な登場人物の人間像を非常にくっきりと造型していたことではないかと思う。金子勇氏は起訴された当初、このソフトでネット上に混乱を起こすことを企図したサイバーテロなどと言われたようだが、松本優作監督は映画の中で、金子勇という人は全然そんなことを考えるような人間ではなく、子どものような純粋さで技術的な高みを目指そうとしただけなのだということを証明しようとしている。早い段階からそれに気付き、深い共感に基づいて弁護を進めようとする壇俊光弁護士の人間像も合わせ、彼らの人となりを丁寧に描写していった松本監督の作劇術は見事だったと思った。同時進行のかたちで、愛媛県警で行われていた裏金作りの領収書偽造事件を並行させた作劇はやや疑問だったが、Winnyが当時の社会に及ぼした影響の一端に結びついていたということで、一応の許容範囲ということにしておきたい。
 いずれにせよ、当時(わたしのようにまったく知らなかった人も多かったのではないか)大きな社会問題となった出来事を、権力の乱用による自由な技術開発への不当な弾圧事件として明確に位置付けた意義は大きいと感じた。それが金子勇氏や壇俊光氏の人間的魅力を通して描かれていたことに共感を覚えた。それにしても、この国の政治体制(権力機構)は金子氏のような傑出した才能(技術的成果)を、筋の通らない逮捕と長期にわたる裁判とで無益に摘み取ってしまったということなのだ。面白い映画だった。今後の松本優作監督は要チェックである。
(MOVIX昭島、3月14日)

by krmtdir90 | 2023-03-19 21:57 | 映画 | Comments(0)
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